春になると色んな生き物が出てくるので、嗚呼春が来たんだなぁと暖かさを感じながら思います。掃除をすると特に遭遇する確率は上がり、半涙目になりながら仕事する事になります。
生き物でも猫とか犬、蝶とかならば全然問題ないのですが、足が沢山ついてる系統や触覚がある…(想像してしまった)ものは、本当に苦手で…。
「暫く掃除していない倉庫は酷い」
ぼそりと低い声で漏らす。これは誰か大丈夫な人に手伝って貰わないと進めるものも進まない。少しダンボールをずらせば何かが視界をよぎるなんて耐えられない。仕方なく倉庫を背に厨房へ向かうと相変わらず料理を爆発させているバルドがいた。
「バルドさん、今忙しいですか?」
「お、*、今は料理の猛特訓中さ!まぁ見ての通りで少し休憩しようかと思ってるがどうかしたか?」
「えっと、倉庫に虫が多いので駆除して欲しいのですが」
「おぅ、それ位お安い御用よ!」
快く承諾してくれたバルドにお礼を言い、スプレーを両手に持ち倉庫に戻る。ダンボールをどかすと出てくるそれらにバルドはスプレーをかけて奮闘するがなかなかすばしっこく逃げられてしまう。それに痺れを切らしたのかどこからか火炎放射機を取り出したので必死に止め、そういえばバル○ン的なものも持ってきた事を思い出し早速使い待つこと1時間。
倉庫を覗くと息絶えたそれらがぽちぽち見える。最初からこれで良かったと思いながらそれをバルドに片付けてもらい、やっと掃除を再開出来たのはお昼を軽く過ぎ夕方近くなった頃だった。
床にモップでワックスをかけていると、後ろから声をかけられた。どうにも振り返りたくなくなるほど機嫌は宜しくない低い声音。
「私を呼んで下されば良かったのに」
「セバスチャンさんは忙しいでしょう」
バルドさんはちょっと手が空いていたので手伝って貰っただけですよ、と付け加えるが表情が変わらないのを見ると返答に納得していないらしい。
床に視線を落とすとワックスをかけたところとかけてないところが半々になっていて何だか通販番組のビフォーアフターみたいに見えてくる。つやつやになるのが楽しくてだんだんと話半分のままワックスをかけることに夢中になる。
「*、人の話全く聞いていないでしょう?」
「あ、そこまだワックスかけてないのでどいてもらえますか」
「…」
「まだ何か」
「最近私に対する態度が冷たいような気がするのは気のせいでしょうか」
「自分の日々の行動を省みてからもう一度その台詞言ってもらっていいですか」
セバスチャンさんの事は好き、ですがそんな事を本人にそのまま告げようものなら今日は眠れなくなることは必至なので迂闊に軽はずみな言動は出来ない。言わなくてもスキンシップと呼ぶには過ぎたものの数々。
それを知っているのか冷たい態度をとっても全く怯む様子はない。にこにこと作った笑顔を向けて私の反応を楽しむのがお好きなようで時折見せる本物の笑顔を毎回見るよりは心臓には優しくてすむけれど、言葉を間違うとそれはもう心臓に悪い綺麗な笑顔を向けてくる。
「私の顔に何か付いてますか?」
床を見ていたはずなのにいつの間にかセバスチャンさんを凝視していたことに気付き慌てて眼を逸らす。それが不服だったのか顎を掬い取られ唇が重なる。長い口付けの後口角を上げて妖艶に微笑む悪魔をぶれた視界のまま見つめ、目を閉じる。クスリとすぐ傍で笑う声。
「私を呼ぶ癖をつけましょうか」
「…」
夜、酷くされたくないでしょう?
唇を人差し指でゆるりとなぞられながら耳元で囁かれると、その言葉に対してなのか耳元で甘い声で囁かれたからなのか背中にぞくりと何かが駆け抜ける感覚が走る。身体は先ほどの長いキスで力が抜けてセバスチャンに凭れかかる状態になり、好き放題にされる。それでも何も言えないのはいつもの紅茶色の瞳ではなく真っ赤な瞳で私だけを映しているから。その瞳で見つめられるだけで目は逸らせなくなり魅せられてしまう。
「…どうでもいい時でも呼びますよ?」
精一杯の言葉を声にするとゆっくり弧を描く口を開き掠れた低音で答える。
「*の呼び出しならばどのような時でもどのような用件であっても参りますよ」
*が多忙な自分をどうでもいい時に呼ぶわけがない事はわかっているが、もしくだらない用件で呼ばれたとしても構わない位溺れている。
悪魔の私が。一人の人間に。
あの時の約束もありますが、約束などしていなくとも私は貴女の我儘を聞きたいのです。
瞳に真剣さを帯びていたのが伝わったのか、頬を真っ赤に染め上げながら小さくわかった、と呟きおずおずと背中に腕を回してくる。その仕草が可愛らしく笑みを零すと腕の力が強まった。
嘘つきなキミの口からこぼれた愛の言葉
(*?)
(セバスチャンさん…私も、呼ばれたら行きます、から)
(おや、それは嬉しいですね…私から行かずとも*から来て下さるなんて)
title 惑星
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