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意味なんてない、あるのは欲望だけ






夜お風呂に入る前まではここは私の部屋だったはず、なのだけど。部屋を間違えたかなと思い周りの部屋を確認してみる。

「おかしい…」

方向音痴は認めるけれど、自分の部屋くらいはわかっていたつもりだった。それなのに部屋は空。自分の服も雑貨も全くない。あるのは他の空き部屋と同じベッドと机と椅子のみ。

何度見ても様子が変わることはなくドアを背にして考える。こんな時は誰かに聞いてみるのが一番だろう。でもセバスチャンさんに聞くのは馬鹿にされそうだし他のみんなはきっともう夢の中。

…もう空き部屋で寝ようかな。眠いし後は朝考えよう。

もう一度部屋に入りベッドに入ると1日の疲れが重みになってどこまでも沈み込む。このまま睡魔に任せて眠れば朝までぐっすり…「*」

「*」

「…ん」

起こさないでと手を振りジェスチャーするがぺちぺちと頬を叩かれ、うっすら重い瞼を開ける。

目の前にセバスチャンさんの顔があり吃驚して思わず跳ね起きた。にっこりと微笑む男に冷たい視線を向けると気にする様子もなく私の身体を持ち上げる。

「このようなところで眠って」

軽々と持ち上げられ、いつものように抵抗は無駄に終わりそのままどこかに連れて行かれる。

セバスチャンからする安心する不思議な香りで誘われる眠気と戦いながら辿り着いた部屋の中はまさしく自分の部屋で。私はこんなにも方向音痴だったかと心の中で凹む。

「私、相当な方向音痴ですね‥」

ベッドに降ろされ布団をふわりとかけられながら呟く。しかし予想していた返事は皮肉や馬鹿にするものではなく、予想を遥かに超えた返答で再び夢から引き戻される。

「え、今何て」

「ですから、*が入浴している間にお部屋を変えさせて頂きました」

「…どこに」

「私の隣の部屋です」

「……戻して下「出来かねます」

「…いいです、明日自分でやりますから」

「一日かけて戻してもまたすぐに戻りますよ?」

「…理由を教えて下さい」

溜息と共に出した声は思ったより低く疲れ切っているのがよくわかる。

「それは*が一人で離れたお部屋で眠るのは淋しいかと思いまして」

「そんな事はないです」

「それにすぐに何かあった時に駆けつけられるでしょう?」

「そうそう何かあってたまりますか」

せめて口だけでも反論すると相手の笑顔が恐ろしいほど黒くなっていくのが見える。墓穴を掘っただけかもしれない、怖いけれどでも言わずにはいられない。布団の中から視線だけを向けると、身を屈め耳元でそっと囁く。

「確かにこれは私の我儘でもありますよ」

ただ貴女を常に傍に置いておきたい、出来ることならば同じ部屋に置きたい位の強い独占欲。

「私の隣の部屋では嫌ですか?」

尚も耳元で低い甘い声で囁かれ耳が熱を持つ。

「嫌というか…何もなければ別に構いませんが」

セバスチャンさんが隣にいるのは心強い。ただ何かされる事が増えそうというのが懸念される。

「*が嫌な事はしませんよ」

嘘吐き。いつも嫌だといっても離してくれない癖に。

「それは*が本当に嫌だと思ってないことが分かっているからですよ」

悪びれず自信を持って言い放つセバスチャンを見て、惚れた弱みというのは厄介だと思った。






結局部屋はその日から隣同士になり、屋敷内の皆から微妙に気持ち悪い笑顔で暫く見られて過ごすという嫌な日々が続いた。特に坊ちゃんの人の悪い笑みと言ったらない。弁解しても余計に笑みを増すだけで効果はない。メイリン達も何だかよくわからない妄想を厨房で繰り広げている、ついていけない。

それらを当人に抗議するも、一緒の部屋がいいんですか?とか更に周りを煽るような事を提案してきて、この屋敷を出ていきたい気持ちに初めてさせられた。




意味なんてない、あるのは欲望だ


title 惑星





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