おやすみ、メリー どん、と背中に小さい衝撃。 ケーキを作る手元に少しずれが起きたが、微々たるもの。振り返ってぶつかった当人を確認したいが、後ろから腕を回されていてかなわない。 こんな事をしてくる人物は1人しか思い当たらない為声をかける。 「*?」 「…」 返答はなく、回される腕の力が強くなっただけ。 もう一度確信を持って問いかけると力が弱まりそれを狙い振り返れば俯く*が力なく燕尾服を握り締めて立っていた。 「どうかしましたか?」 屈んで*の前髪をかきあげ、頬に手を添えながら表情を伺うと蒼白な顔色で泣いた痕があり身体も震えている。 「…った」 「…?」 「良かった…」 ぐす、と涙ぐみながら心底安心したようにほぅっと息を吐く。一体何がそんなに不安を煽ったのかわからず落ち着かせようと頭を撫でる。 「セバスチャンさんが生きてて良かった」 「私はそう簡単には死にませんよ」 「そうかも、しれないですが…」 セバスチャンさんがぼろぼろで倒れてて、坊ちゃんもどんどん血の気が引いていくのを只見ていることしか出来なくて、と涙を零しながら続ける*の背中をさする。 相当怖い夢を見たようですね。 「所詮夢は夢ですから」 こくりと小さく頷き、傍にある椅子に腰かけた。すぐにホットココアを出すと落ち着いたようで飲みながら息をつく。 「…眠りたくないです」 ぼそりと聞こえるか聞こえないか位の小さな声で呟き、このままここで朝までセバスチャンさんと話していればいいと考えた。 今寝てしまうとまた同じような夢を見てしまいそうで怖い上に、二度も見てるだけなんて歯痒い思いはしたくない。 「夢の中でまで心配されるというのは私としては大変嬉しいのですがこのまま眠らないとなると明日貴女が辛いですよ?」 「いいんです、その位頑張ります」 居座る気で既にいる*に苦笑いを浮かべ、飲み終えたカップを貰う。 「お話したいのは山々ですが、貴女の身体が心配なので申し訳ありませんがお休み下さい」 視界が狭くなる感覚に何とか抗おうとするも耳元で今度こそよい夢を、と囁かれ最後の糸は容易く途切れた。 机に突っ伏して眠る*をそっと抱き上げて、部屋へと向かう。表情を窺うと気持ち良さそうに眠っているので悪い夢は見ていない様子。 笑みを湛えながら柔らかく微笑む唇に啄む程度に軽く口付け、暫くその可愛らしい寝顔を眺め続けた。 おやすみ、メリー 朝、珍しく*が始業時間直前に現れたのを見て、少し多かったかとひっそり苦笑した。 title 惑星 |