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馬鹿で結構です。だから、隣にいさせて下さい。






タナカさんとお茶をするときはどうしても元いた場所を思い出させる。タナカさんはいつもお茶と一緒にお茶菓子を用意していて、羊羹だったり、お煎餅だったりどれもお茶に合い美味しい。

今日もタナカさんが私の為に用意してくれた湯呑みにお茶を並々注ぎ、私が持ってきた和菓子と一緒に二人庭でまったり談笑していた。休憩時間くらい癒しが必要。タナカさんは最高の癒される存在で、疲れた身体も顔を見るだけで飛んでいく。お茶を一口飲み、ほ、と一息。

「今日もタナカさんのお茶、美味しいです」

「ほっほっほ」

殆どタナカさんはほっほっほしか言わないけれど、敢えてそれがいい。ぼーっと外の空気を吸いながら、緑や薔薇が咲き誇っている様を眺める。嗚呼、幸せ。




「*」

ただ最近この癒しの時間が削られてしまっている。聞こえているけれど無視を決め込みお茶をすする。 ぽんと肩に手を置かれ、なお振り向かないでいると強制的に方向転換させられる。目の前に広がっていた綺麗な光景から一転、黒を称えた笑顔の男が鼻先に触れるほどの距離にいる。

「何故無視するんです」

「大抵この時間が潰れる事がわかってるからですよ」

「わかっているのでしたらその抵抗も無駄だと何故わからないのでしょうねぇ」

セバスチャンには抵抗は無に等しい。どこに隠れてもすぐに見つけられるし、走っても一秒もしない内に首根っこを掴まれるし、真っ向勝負なんてもってのほか。抱きしめられて離してもらえなくなる。

「さ、行きましょうか」

渋々お茶を一気に飲み干し、タナカさんにお礼を述べてから引きずられるようにその場を後にする。

私の癒しの時間はセバスチャンさんによって半分以下に減ってしまっている。恨みがましい瞳で前を歩く男を見つめ続けると、不意に立ち止まり私の代わりに溜息を吐いた。

「*、休憩時間でしたら私がお茶くらい入れますよ?」

何度も申しているでしょう?貴女の好きなデザートも作りますし、それなのに何故タナカさんの所へ行くのか理解できませんね。ぶつぶつと不満を漏らすセバスチャンを一瞥し、逸らす。

「タナカさんとのお茶は落ち着くんですよ」

気兼ねなくお話しできますし、タナカさんを見てると釣られて笑顔になりますし。

「私とのお茶では落ち着かないんですか?」

「そうですね、落ち着きませんね」

即答すると冷たい視線が痛いほど飛んでくるが、それを無視し床を見つめる。

お互い無言になり、暫く床の模様を眺め続けていたがこのままでは埒が明かないと判断し、仕方なくなおも冷たい視線で見下ろす男に目を合わせた。

「…二人っきりの休憩室で、見つめられながらお茶を飲むのって緊張するんですよ、相方が好きな人ならば尚更に」

それだけ告げれば視線は和らぎ、それを見て案外セバスチャンさんも単純だと思う。
明日からは仕方がないので、セバスチャンさんとお茶をしてもいいかなと美味しい紅茶を飲みながら考えた。



馬鹿で結構です。だから、隣にいさせて下さい


でもときどきはタナカさんともお茶させてほしい…





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