ふよふよと浮かぶそれは直す暇がなかったのだろうかそれとも後ろだから気が付かずに来てしまったのか。どちらにしても可愛らしい。
きっと急いでたのでしょうね。珍しく寝坊したみたいですし…まぁ寝坊させた理由は私にあるんですが。
息を切らしながら執務室にきた*が小さくセーフ、と呟くのを見てクスリと聞こえない程度に笑う。
「*」
「は、はい?」
まだ寝坊の名残か、わたわたしながら近寄る*を微笑みながら見つめ、そっと髪に触れた。
「癖、ついちゃってますねぇ」
「え、あ…!」
寝癖にやっと気が付いた*は見事にはねてしまって直りそうもない髪を手櫛で整えようとする。勿論直らない。
(どうしよう…)
こんな日に限ってお客様が午後からいらっしゃる予定があり、ただのメイドとはいえ目に止まってしまえばだらしないと思われてしまうかもしれない。
思考は暗い考えになり焦り始める。
明らかに先程よりも焦りだした*を見て笑みが零れる。
「仕方ありませんね、今日だけですよ?」
「え?」
はねているところをそっと一撫ですると形状記憶のように浮いていた髪は他の髪と同じように大人しくなった。
直った髪を確認し、ほっとした表情を見せる*に
「そんなに髪を気にしなくとも、今日はお客様に顔出しをしないで良かったんですよ」
「どうしてですか?」
その質問には答えずにっこり微笑む。
「お客様がいらしても貴女はご自分の仕事を続けて下さいね」
「…は、はい」
疑問が頭を占める、けれどセバスチャンさんはこれ以上聞いてくれるなといった表情で念を押すような口調だった為、肯定するしか出来なかった。
それぞれ持ち場に向かい、部屋にセバスチャン一人になった後、自嘲気味に笑う。
今日のお客様には貴女の姿を見せたくないのですよ。*と同じ位の歳の男性で、その上噂では相当の女性好きと聞く。挨拶にでも出そうものなら目を付けられることは必至。
そんな男に貴女を晒すなんて真似許せるはずがないでしょう。貴女に触れていいのは私だけ。
この屋敷の中で私は貴女を拘束し続ける。
逃がさない私の可愛い人
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