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そしてセクハラは公認される





1日の中で私は何回セバスチャンさんのセクハラを受けているか。人目を憚らず抱きしめられ、酷いときはキスまでされる。特にフィニやバルドと話した後はがらりと態度が変わる。理由は全くわからないけど必ずセクハラが増える。

「セバスチャンさん」

「何ですか?」

「…掃除が出来ないんですが」

そして今も現在進行形でセクハラを受けています。

後ろから抱きすくめられて一歩も動けず庭は道も見えないほど雪で埋め尽くされたまま。溜息を落として行動の自由を奪う本人を正面から見る為にそっと振り返る。

恐らくは猫と同じ感覚で私に触れているのだろう。毎日自分の仕事+使用人の後処理に追われ、正直なところ全て一人でやった方が早いのではないかと思うほど酷く大変そう。

今まではあの黒猫に癒しをもらっていたけれど、最近は私で疲れを癒しているような…。1日一回ならまだ許せる、しかし頻度が半端ない。私としてはその度に恥ずかしくて居たたまれなくなる。

「そ、そろそろ雪退かさないと今日はお客様がいらっしゃるのでしょう?」

「えぇ、ですがもう少し」

腰にするりと腕が回され、頬には手が添えられ目線を合わせられる。紅茶色の瞳が真っ直ぐに見つめてきて、その視線に耐えられずにぎゅっと目を瞑ると唇に柔らかい感触。私がそうするとわかっていて見つめてきて、目を瞑らす。恥ずかしさから暫く目を瞑ったままで、やっと身体が解放されたとき目を開けると優しい笑顔が間近にあった。

「…も、仕事中ですから」

あまりにも近い距離に再び目を瞑りかけるがそれよりも驚くべき状況を目の当たりにし、逆に目を見開く。

「え」

先程まで満遍なく積もっていた雪が跡形もなく消え去り、少し離れたところに堆く積み上げられているのを目にしてそのまま固まる。

これは間違いなく目の前にいる悪魔で執事さんの仕業だけれど目を瞑っている短い間にどうしたらこれだけ退かせられるのか少し目を瞑っていた事を後悔した。

「これで*の仕事はなくなったでしょう?」

「セバスチャンさんが頼んだ分はなくなりましたね」

後はフィニから買い物を頼まれていて、メイリンからは洗濯物の取り込み、バルドからは…と次々と頼まれ事を告げると明らかに機嫌の悪くなった様子のセバスチャンが溜息を落とした。

「貴女は断るという事を知らないんですか」

「そんな事言われてもみんな忙しそうだから」

「*にもそれなりに仕事があるでしょう」

「う」

セバスチャンさんには口ですら勝てない。どんなに反論してもそれ以上の的確な言葉で牽制され、抑えられてしまう。

言葉が思いつかず俯くと、抱きしめる腕の力が強まり苦しくなる。

「後少しだけ…」

こうさせて下さい、と呟くセバスチャンさんが何だか切実で、離す気力を失う。しかしただ黙って抱きしめられ続けるのも恥ずかしいので誤魔化すように少し憎まれ口を叩いてみる。

「私はいつもいる猫さんの代わりですか」

ぼそりと冗談のつもりで言った言葉に意外にも驚いた表情を見せるセバスチャンさんにこっちが驚かされる。更に返答にも。

「…それは、嫉妬ですか?」

「はい?」

「確かに私は彼女と貴女で日々のストレスを癒して頂いているのは確かです、が」

にっこりと眩しい笑みを浮かべている時は大抵何か企みがあると知っているだけに今凄くこの場から逃げ出したいのだけれど、腰を引き寄せられている為引く事すら出来ない。そのまま顔が近付き反射的に目を瞑る。少しして唇に柔らかい感触、そして更に深く合わさる唇。息苦しさが限界に来る頃やっと離れ、先程とは違う笑みで此方を見るセバスチャンと目が合う。

「彼女とはこういった事は出来ませんし、ね」

「…っ」

「嬉しいですねぇ、*がそこまで私を想ってくれているとは」

冗談とはいえやきもちの感情がなかったと言えば嘘になる。猫といっても、あの笑顔は私だけに見せてほしいと思った事があるから。でも自分の黒い感情が嫌で、冗談混じりに言ってみたことが鬱陶しがられるどころか、喜ばせるとは思ってもみなかった。

「…やきもちなんて相手には迷惑なものでしょう?」

「いいえ?それだけ私の事を好きだからこそ、芽生える感情ですから相手にとってはこんなに嬉しい事はないでしょう」

「そう、ですか」

腑に落ちない顔をした私にセバスチャンが例えば、と続けた。

「それでは*、私がいつもバルドやフィニや坊ちゃんに嫉妬していると言ったらどうですか?鬱陶しいですか?迷惑に思いますか?」

セバスチャンさんがみんなに嫉妬している、私を想うが故に。それは私だけを見てくれているという証拠なのだから嬉しくないはずがない…「あ…」

「わかりましたか?」

「はい…」

セバスチャンさんも同じように嬉しいと思ってくれている。お互い好きだからこそ。その事実に顔を綻ばせると頭を優しく撫でられる。

「という事ですから、なるべくあの三人とは仲良くしないようにお願いしますね」

「え?」

それは無理な話では…と言いかけて飲み込む。顔を上げると有無を言わせない笑顔がそこにあり、はい以外の返答を拒否したセバスチャンの顔が眼前にあったから。

「譲歩します」

「そうして下さると助かりますね、私の為にも貴女の為にも」

考えようによっては恐ろしい言葉に聞こえるが気にしてはいけないと言い聞かせてもう一度降りてくる唇を受け入れた。







(でもみんなの前でする必要はないでしょう!)


(いいえ、皆さんの前でするから意味があるんですよ)

(意味がわかりません…!)





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