03
03.
ノックの音に、青と紅はハッと振り返った。
紅が咄嗟に青を背後に庇い、不安を押し殺しながらも、青はその背中に縋りついた。
ふたつの視線は、重々しいドアが静に開かれるのをじっと見守っていたが、その目には、怯えの色が見え隠れしていた。
それも当然だろう。
知らない間に、知らない場所に居たのだから。
最初に目に飛び込んで来たのは、驚くほどの見事な体躯だった。その上にある顔も、いかにも体育会系といった感じだが、決して整っていないわけではない。それどころか、女性が百人いたとすれば、その内の九十人は間違いなく格好いいと言うであろう、男らしい精悍な顔立ちをしていた。
『目が覚めていたか』
低い、響くような声で何かを話し掛けてきたが、二人には何を言っているのか理解できなかった。
英語でもフランス語でもない。どこの国にも存在しないような異質な言語に、紅の服を掴む青の手に、力が籠もる。
『ちょうど目が覚めたようだぞ』
巨漢が背後を振り返っているところを見ると、どうやら、まだ他にも誰か居るらしい。
何人いるんだろうという、青の戸惑いを敏感に感じ取ったのか、紅の体が僅かに強張る。
不安を取り除いてやりたと紅はきっと思っているかも知れないが、当の紅本人も不安に襲われているのだから、それは無理な話だ。
紅の警戒する姿が、青の心に、更なる不安を積もらせる。
精神的にこんなに不安定では、いつまた喘息の発作が起こるか判らない。
青は無意識に喉に手を当てていた。
青は生まれつき体が弱い。
生まれた当初から健康優良児だった紅とは正反対だ。
今でこそ、喘息だけで済んでいるが、小さい頃には、少しでも無理をすれば頻繁に発熱していた。
双子として同じように母胎の中で育ち、同じように産まれてきた。
それなのに青だけが病弱なのは、その体に、大きな欠陥があるからだ。
家族以外の誰にも知られてはならない秘密が。
「あんた達、誰?」
言葉が通じないだろう戸惑いは、紅にはない様だった。
『んあ? 今なんて言った?』
やはり言葉は理解できない。それでも巨漢の男の表情から、読み取ることはできた。
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