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02
02.


意識がゆっくりと浮上する。
ふわふわとした真綿に抱き包まれているような、そんな心地良い感覚のまま、青は瞼を開いた。

(薄暗い……)

薄暗い視界は、夜明け間近だからだろうか。
そう言えば、カーテンを開けっ放しにしていたような気がする。

(喘息がおこって……地震があって……それから……)

曖昧になってしまった記憶を、半覚醒の意識で辿る。
激しい揺れに、紅としっかりと抱き締め合った。
眩暈と、薄れて行く意識。

それから──どうなった?

ベッドに入った記憶などない。なのに、青はベッドに寝ている。
そこで、青の意識は、完全に覚醒した。
驚きと困惑に開かれた瞳に飛び込んで来たのは、見知らぬ天井だった。

「……!?」

よくよく見ると、天井だと思ったそれは、ベッドの天蓋だった。
ゆっくりとベッドから起き上がり、天蓋から垂らされた紗幕をまくって、そっと様子を伺う。
まず目に付いたのが、天井から床までの大きな広い窓。それから、金糸銀糸をふんだんに使って手の込んだ刺繍のなされた、ずっしりとしたカーテン。
驚くほど緻密な模様に織り上げられた絨毯の上に置かれているテーブルなどの家具も、とても高価そうだ。燭台に灯る蝋燭、壁に等間隔に並んだ明かり用の蝋燭立て。どれもが、飾りと実用性を併せ持った見事なものだ。
薄暗いと感じたのは、紗幕が下げられていたせいもあるだろうが、照明となるものが、蝋燭の明かりしかなかったからだ。
天蓋付きのベッドといい、まるで中世のヨーロッパの城にでもタイムスリップしたような造りの部屋だった。
青の心に、どっと不安が押し寄せてきた。

(ここ……どこ?)

心なしか息苦しさまで覚えて、知らず知らずに胸に手を当てる。
知らない場所に居ることが、これ程までに不安を煽るとは。

(紅……、紅……?)

今まで眠りに就いていた重厚なベッドを振り返って紅の姿を認めると、青はほっと安堵の息を吐いた。
ひとりじゃない。紅がいる。
それだけで、青の心から不安が消え去った。
まったく不安が無くなった訳ではないが、紅が居れば、それだけで大丈夫な気がするのだから不思議だ。

「紅?」

気持ち良さそうに眠りに就いている紅を起こそうと伸ばした己の手に、喘息用の吸入器が握り締められていた。
あおの時、あまりにも強く握っていたので、感覚が麻痺してしまっていたようだ。
思い通りに動いてくれない指に苦戦しつつ吸入器を離すと、ズボンのポケットにしまい込んだ。

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