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01-4
リードグレンとて、事の重大さをきちんと認めてはいたのだが、簡潔に済ませられる被害状況の報告を先に回したのだ。
落ち着くようにクレウィーアを宥めて、イシュヴァルトは先を促した。

「どういう事だ」

リードグレンは、しきりに顎を撫でる。
余程言い難いことなのか、それとも、どう切り出せばいいか悩んでいるのか。

「揺れが起こる前に神殿内の見回りを行った時は、確かに誰も居なかった。報告も上がっているし、おれ自身も確認している」

戸惑いと期待、少しばかりの不安。
そんなものが、説明し始めたリードグレンの声音に宿っていた。
あの騒動の最中、神殿警護の兵で持ち場から離れた者はいなかった。
どんな事件が起ころうと、任務はきちんとこなすのが兵士としての勤めだ。リードグレンは兵士の身に染み付くくらい、訓練の中に取り組んでいるし、実践訓練も行っている。
そんな彼等の目を盗んで紛れ込む事は、どう考えても不可能だった。
それにも関わらず、いつの間にか中に入り込んでいた。
まるで、忽然と姿を現したかのように、ふたりは、神殿の祭壇の前に意識を失って倒れていたのだ。
見たこともない、異国の服を身に纏って。

禍々しい双月。
感じた事のない激しい大地の揺れ。
忽然と現れた、ふたりの謎の人物──。

クレウィーアの表情に、まさかという驚きが見え隠れしていた。

「陛下……」

イシュヴァルトとクレウィーアの視線が重なる。
どうりで、リードグレンが困っている筈だ。
話している本人も、事の重大さに頭が混乱していて、どう話せばいいのか判らなくなっていたのだ。
イシュヴァルトは静かに肯いた。
月を見上げて最初に感じた、脳裏を掠めたあの予感は、外れてはいなかった。
まだ、そうだとは言い切れない。
だが、違うとも言い切れない。

「──双月の巫(みこ)か」

双月の巫──大地との契約を結ぶ、大切な覡(みこ)を指す。
その存在は、この国の開闢(かいびゃく)の頃に、一度現れたきりだという。
遥かな年月が流れ、やがて、その存在は人々から忘れ去られて行った。
唯一その存在を示す古文書も、国民の記憶や意識から無くなり、今や直系の王族と国の中枢に座る者達だけが、その在処(ありか)を知るのみである。
その《双月の巫》が、現れたかもしれないのだ。
大地との古の契約が失われつつある、この国に──。

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