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序章
序章.


息苦しさを感じて、小早川青(こばやかわ せい)は目を醒ました。
部屋の中は暗く、夜が明けるまでには時間があるようだ。
時計に目をやると、ようやく深夜四時を回ったところだった。

青は、ベッドから抜け出し、窓に歩み寄った。
じっとりとした夏独特の空気が体に纏付いて、気持ちが悪い。この気候のせいで息苦しかったのかと、青はほっと安堵の息を吐いた。
遮光カーテンを僅かにずらして、隙間から外の景色を覗く。
漆黒の闇に街灯の光がぽかりと浮かび、空には、不気味なくらい赤々とした月がひっかかっていた。

(やな感じ)

赤い月は恐い。
何か、恐ろしい事が起こりそうな気がする。
気のせいだと判っていても、青は赤い月が怖かった。

(寝なきゃ)

ベッドへ引き返そうとした青は、突然訪れた喘鳴音(ぜんめいおん)に、びくりと体を震わせた。
息苦しさの原因は、じめじめとした暑苦しさではなくて、これだったのだ。
己の迂闊さを呪いたくなった。
ヒューヒューという息が漏れるような、何かが引っかかるような音が、喉から漏れる。

(紅を起こしたくないのに……)

青はずるりとその場に尻をついて、胸元の寝間着をきつく握り締める。

(……治まれ……)

だが、喘鳴音は治まるどころか、酷くなっていく。

(く…すり……)

けほんと咳が出る。
嵐のようなゼイゼイという音は、今や胸の方から響いて来ていた。

「ん……青?」

同じ部屋で眠っていた紅(こう)が、異変を感じて目を開いた。
喘息独特の呼吸音に、青が眠るベッドを見やったが、青はそこには居なかった。

「青!?」

ベッドサイドに置かれているライトを灯し、喘息の薬を手にする。
居るべき場所に居ない事に気付いた紅は、灯りを頼りに、窓辺にうずくまる青を見つけた。

「青、これっ」

「あ……がと…」

手のひらに小さな吸入器が手渡される。青は薬を装填し、吸入器を口に含んだ。
息を吸うタイミングを見計らって、薬を押し出す。
薬が喉へと流れていくのを感じる。
がくりと吸入器を持つ手から力を抜いて、青は薬の効力が現れるのを待った。

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