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-(3)

視界に飛び込んで来たのは、整然と並んだ出迎えの近衛兵達。彼等は采国と紫藍国の国旗を掲げた槍を交互に持ち、同じ角度を維持したまま人形のようにぴくりとも動かない。
燦然と輝く陽光の下、風に靡く国旗を持つ兵士達の様は圧巻だった。
薄着の下で、圧倒されたような表情を浮かべていた馨佳だったが、前に進み出て来た人影に気付き、意識をそちらへ向けた。
年の頃は、馨佳よりは二つ三つ上のようだが、そう変わりないようだ。
彼は両手を胸前で重ね合わせると、馬車内に納まる馨佳へと恭しく礼を取った。それは皇帝に向けられる最高礼と同じものであったが、国の違う馨佳には、それが解らなかった。

「ようこそお越しくださいました、馨佳様。私は紫藍国皇帝覇久毘が愚弟、焔醒(えんせい)と申します。ふつつか者ながら、馨佳様のご案内役を仰せつかりました」

今挨拶のあった皇帝の弟の焔醒の後ろには、宰相の那祇阿、荷物持ちの従者が数名が並んでいた。
焔醒が馨佳へと手を差し伸べて馬車から降りるように促す。馨佳はその手のひらの上にそっと己の手を添えると、静かに馬車から降り立った。

「長の旅路、お疲れではございませんか?」

「いえ、大丈夫です」

確かに長旅であったが、実際、旅の疲れはそれ程感じなかった。

「それは良うございました」

にこりと邪気のない微笑みを向けられて、馨佳の唇もつられて笑みを浮かべる。

「陛下との謁見が控えておりましたので、お疲れならば申し訳なく思っておりましたが……」

「お気遣いありがとうございます」

馨佳は軽く頭を下げた。

「お国からお付きの方をお連れなのは重々承知しておりますが、皆様お疲れでございましょうから、差し出がましいようですが、お荷物はこちらの者達でお部屋まで運ばせて頂こうかと思っております。構いませんでしょうか?」

そう言いながら、焔醒は背後に控える従僕を指し示す。
馨佳は軽く肯いて感謝の意を現した。

「国から一人も連れて参りませんでしたので、大変助かります。どうか宜しくお願い致します」

馨佳の言葉に、え、と焔醒の顔が驚きに満ちた。

「連れておいでになられなかったのですか? お一人も?」

「はい」

驚かれるのも無理はない。
王族や貴族が輿入れする場合、身の回りの世話を任せる為に、気心の知れた使用人を数名、実家から連れてくるのが通常だ。婚家へと長旅になるのならば尚更である。


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