02.
「陛下」
執務室で書類を捌いていると、宰相の那祇阿(なしあ)が声を掛けてきた。
「どうした」
不機嫌になりつつも、覇久毘は書類から視線を上げずに応じた。
近頃は采国から迎える花嫁の話ばかりだ。どうせ今回もその話なのだろうと、覇久毘は些かうんざりとしていた。
「采国からの花嫁ですが、明後日到着との事です」
「そうか」
案の定で、覇久毘は溜め息を殺す事ができなかった。
いかにも面倒臭いと言わんばかりの覇久毘に、那祇阿の眉がぴくりと揺れる。
「陛下、貴方様の花嫁で御座いますぞ。もっと身を入れてお迎えの準備をなさいませ」
父親よりも年齢を重ねている那祇阿には、いい意味でも悪い意味でも覇久毘の全てを知られているせいか、逆らえないところがある。ぴしりと言われ、渋々と書類から視線を上げた。
「私が望んで迎える訳ではないのだがな……」
ついうっかりと本音が唇から零れ落ちる。
「何か仰られましたか?」
普段は嫌になるくらいに耳敏いのに、こういう時にだけ耳が遠くなるらしい。
「……いや、いい」
承認の署名をする為に手にしていた筆記具を手放すと、椅子に深く身を預けた。
「で、私にどうしろと?」
瞼を閉じ、疲れが溜まった目頭をそっと揉み解す。
「何かをしろ、とは申しておりませぬ。ただ、もう少し関心を持っていただければ嬉しく思いますが」
己の花嫁だから、せめていつ頃の到着かくらいは気にかけろと言いたいらしい。
「ああ、判った判った。明後日に到着するのだな? 正午か、夕方か?」
「正午で御座います」