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-(2)

牡丹のように儚げでたおやかな姿を、閏星はじっと見つめた。

「謹んでお受けいたします」

顔を上げた馨佳は、父王に縋るような目を向けたが、結局それ以上は何も言わず、振り切るように部屋を出て行った。

「すまぬ、馨佳」

独り残された閏星は、黒檀の執務机に手をついたて、馨佳が出て行った扉に頭を下げた。

「すまぬ……」

馨佳は閏星の第一子だ。
采国は男子であれ女子であれ、正妃の腹から生まれた第一子が太子と定められている。それは世継ぎ争いを避けるための、歴代の国王達の苦肉の策だったのだろう。
けれど、馨佳にはそれが許されない。馨佳にだけは、当てはめてはならない。
太子にもなれず、その上、国を追われるように出て行かねばならない馨佳が、閏星は不憫でならなかった。

幸せになって欲しい。

父親としての、唯一残された願い。
せめてもと、宰相に任せる事なく、閏星は自分自身で馨佳の嫁ぎ先を決めた。

「頼む、覇久毘王。馨佳を……」

一国の王である立場の閏星には、胸の内でひっそりと願う事しか許されない。
愛おしい我が子を己が手で放逐しなければならないという、断腸の思いを抱えていた閏星は、馨佳が嫁いだのを見送ったのち、王位を退くと決意していた。

「……馨佳を、幸せにしてやってくれ」

祈るように、ずっと。

閏星は、執務室の窓から、紫藍国の方角へと目を向け続けた。





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