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06-2


紅は自分の口を手で覆う。
うっかりと感情のままに大声を上げてしまったことを後悔しているようだ。

「ううん。紅も気持ちも解るから……」

ぐずるアーシュレイアを宥める青に、紅は気まずそうな視線を向けた。

「紅の言うことも解る。確かに、あんな禍々しい雰囲気の巫なんていないんじゃないかって。でも……イシュリアやセイレス、クレストが僕達に応えない理由は? 僕達が本当の巫ではないと解ったからじゃないのかな、とか思うと……」

「…………」

それは紅も思うことろがあったようだ。
眉を顰めて考え込んでしまった。

「彼等の方が本当の≪双月の巫≫だって解ったから、彼等は僕達に応えないんじゃないかなって」

考え始めると、どんどん嫌な方向へと思考が進んでしまう。
もし自分達が本当の≪双月の巫≫でないと解った場合、ここから立ち退かなければならないのか。
立ち退くのは構わない。元々相応しい場所だとは思っていないから。だが、立ち退くという事は、イシュヴァルトの傍らからも離れるということになる。
最初はイシュヴァルトも青を想っていてくれるだろう。けれど、距離をとるということは、いずれその想いも風化していくのと同義だ。想いは永遠に同じではない。移ろうものだと知っている。イシュヴァルトの気持ちが新たな≪双月の巫≫のどちらかに向いた時、青はそれに耐えられない。
異世界に飛ばされ帰る道もわからず、この世界で生きてくと決めた。
イシュヴァルトが「愛している」と言ってくれたから。
青の生きていく心の糧。
それが今、両手から砂のように零れ落ちてしまいそうで……。

「紅……僕、怖いよ……」

アーシュレイアを抱きしめる腕が思わず震える。
横に寄り添った紅が、そっと、アーシュレイアを抱きしめる青を抱きしめた。

「……うん。正直、僕も怖い……」

何が起こっているのか解らない事ほど恐ろしいものはない。
自分のことなのに、自分で決められないもどかしさ。
自分達の意思を無視して、世界は動いていく。
どうしようもない事実に、二人は震えているだけしかできなかった。






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