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05.
ウランバルトが巫を連れて来た翌日から、連日のうだるような暑さが、嘘のように穏やかな過ごしやすい気候になった。
執務室で黙々と公務をこなしながら、イシュヴァルトは漏れそうになるため息を飲み込んだ。
「一体、どんな魔法を使ったんだか……」
ウランバルトが≪双月の巫≫を連れて来たという噂は、すでに城内に広がってしまっている。
箝口令を強いてはいるが、人の口に戸は建てられない。城に出入りを許された商人達の耳に入るのも時間の問題だろう。そうなれば、あっという間に国中に噂は広がり、ウランバルトの連れて来た巫が本当の≪双月の巫≫だったと、誤った認識が浸透してしまうことになる。
青や紅を巫の座から降ろし、新たな正しい巫をと言い出すだろう。実際、城内の者達の何人かは、疑心を持っているようだ。
一人二人の意見ならば無視する事も可能だが、それが全国民の意志となれば話は別だ。いくら王であるイシュヴァルトでも、彼等の意志を跳ね退ける事はできない。
国とは、民がいてこそ成り立つもの。
人が集まり集団をつくり、それがやがて国になり、国を率いる指導者が選ばれる。それが王だ。
王は、民意が離れれば王とは言えない。
我を通す愚王は過去何人かいたが、何度も謀叛を興され、権力と武力に物を言わせて黙らせた彼等の御世は、惨憺たるものだった。
「……拙いな」
王の座が惜しいわけではない。自分以上に国民に有益な施政をしく者になら、イシュヴァルトは喜んで譲位するし、青を守る為ならば、こんな下らない立場などいつでも捨て去れる。
だが、青の名誉を傷つけられるのを指をくわえて見ているつもりはない。
「さて、どうするか……」
イシュヴァルトは書類から目を離し、雲一つない青空を見上げた。
「陛下」
囁くような小さな声が、イシュヴァルトしか居ない執務室に落とされた。
「サウールか」
イシュヴァルトは、見上げていた窓とは別の窓へと視線を向けた。
先程まできちんと閉められていた窓が、いつの間にか僅かに開いていた。
窓際には、サウールが膝をついていた。
「どうだ」
「は。例の双子には今のところ怪しい動きはございません」
「……そうか」
ただ、とサウールは続けた。
「ウンバルト男爵様が、双子を連れて城内を歩き回っておられます」
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