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04-4


「この国――いやこの世界と言った方が正しいか。上位の者から下位の者に頭を下げないんだ」

「じゃあ、どうやってお礼を言うの?」

子供でも大人でも、上位者であろうと何であろうと、人に何かをしてもらったら、ありがとうというのは当然の礼儀だ。少なくとも青と紅はそう教えられた。

「じゃあ、どうやって感謝の気持ちを伝えるの?」

「そういう感覚が、この世界には無い。下の者が上の者に尽くすのは当たり前だというのが常識だったからな」

かく言うイシュヴァルトも、かつてはそれが当たり前だと思っていた一人だ。
上下など、人が定めたもの。位に関係なく人は人であり、誰しもが感情も持ち合わせている。そう頭では解っていたし、下々の者には心を砕いていたつもりだったが、実際は理解できていなかったのだ。それは、結局はイシュヴァルトが下層の生活を体験した事が無いからに他ならない。
この世に生を受けてから、用意されていた世界を当然として受け入れていたのだから、仕方がないと言えば仕方がないのかも知れなかった。
その身を犠牲にしようとした青。心から大切にしたいと思える存在を得て、己を引き換えにしてでも助けたいと願った。
その彼が、貴賤を問わず礼を告げる。女官にも従者にも、差別なく。
そして、彼等の嬉しそうな、どこか誇らしそうな表情を見て、初めて理解できたのだった。
青は、王としてのイシュヴァルトに多大なる影響を与えてくれた。

「……そんなの、おかしいよ」

「ああ、そうだな。確かにおかしい。だが、簡単には変えられないのも事実だ」

イシュヴァルトが王につき、これでも因習は少なくなった方だ。
警備の兵士の数を減らす。たったそれだけの事に、イシュヴァルトは三年近く歳月をかけていた。

「それは……そうだろうけど……」

間違ってはいない。正しい事だと言われても、社交界での常識でそれを遮られて、青と紅は不満そうに呟いた。

「ありがとうございます」

「え? 僕達は何もしてないよ?」

いいえ、とサウールは
サウールは、穏やかな笑みを浮かべながら首を振った。

「あなた方は、私の事で怒って下さった。そのお気持ちが嬉しいのです」

「そんなの……」

「あなた方の心は、しっかりと私に届きました」

胸に手を当てて深く頭を垂れる。
サウールは服従からではない礼を二人に示した。それは、気持ちに従った自然なものだった。







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