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04-3


「その節は、紅がお世話になりました」

≪双月の巫≫に、しかも片方は王妃でもある双子から頭を下げられ、サウールは本気で狼狽えた。

狼狽えるサウールなど初めて見る。

「……顔をお上げ下さい」

上位の者が下位の者に頭を下げるなど前代未聞である。社交の場で行えばとんでもない醜聞だが、ここは私的な空間であり、彼等の心からの気持ちを温かい思いで見つめる者達ばかりだ。
クレウィーアもリードグレンも、当然イシュヴァルトも、面白そうにそれを眺めた。

「……陛下」

頭を上げてくれと頼んでも頭を上げてくれない双子に、サウールはとうとうイシュヴァルトに助けを求めた。
捨て犬が保護を求めるような瞳で縋られ、イシュヴァルトの肩が笑いで震える。
隠密を生業としているサウールは、普段は感情を表に出すことはない。感情というものが、己の仕事に不要なものであると知っているからだ。
感情は判断を鈍らせる。誤った判断は、取り返しのつかない事になるので、どんな状況下においても冷静な判断が下せるように訓練されている。
その隠密頭であるサウールが、感情も露わに助けを乞うている。面白くない訳がない。

「く……くく」

我慢できずにイシュヴァルトは声に出して笑った。

「陛下、笑い事では御座いませんっ」

苦虫を噛み潰したように渋面を張り付かせるサウールに、残りの二人も噴き出してしまった。

「……ああ、悪い、悪い」

まったく悪いと思っている口調ではない。事実、まだ肩が震えている。

「セイ、コウ……くく」

恨めしそうに視線を向けてくるサウールに、笑いが込み上げるのを止められない。

「サウールが困っている。顔を上げなさい」

クレウィーアは笑いを堪えるせいで目に涙が溜まっているし、リードグレンは、床に転げ落ちそうになりながら、

「腹が痛てぇ……」

とぼやいている。

「……僕達がお礼を言ったら、困る?」

小首を傾げながら訪ねる青に、サウールはもうどうすればいいか判らなくなってしまった。

「サウールは、礼を言われ慣れていないんですよ」

「え?」




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あきゅろす。
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