02-2
「そうでしたね」
漫才に近い掛け合いすら控えるくらい、彼等にとって重大な事が起こっているらしかった。
謁見の間に向かう道程に、クレウィーアは事のあらましを話して聞かせた。
「ここのところ、ずっと猛暑続きでしょう?」
役目を果たしていないと責められている訳では無かったが、青はしゅんとうなだれて蚊の鳴く声で謝った。
「……ごめんなさい」
「あなた方のせいではありません。いくら《双月の巫》とはいえ、神々の意志を曲げる事は不可能です」
「そうだぞ、おまえ等が気にする必要は無いからな」
慌てたクレウィーアの説明もリードグレンのフォローも、しょげ返ってしまった青の耳には入らない。
「でも、そう思ってる人達がいるって事でしょ?」
「……残念ながら」
それは、主都から離れれば離れる程に顕著になる。農作業を営む者達にとっては、死活問題なのだから、仕方が無い事なのかもしれない。
だからこそ、役目を果たせていないと言われたようで、青はすっかり落ち込んでしまった。
しょげ返る青の手を握り締めながら紅がそっと嘆息する。紅とて落ち込みたいのは山々だが、同じ様に落ち込んでいては前に進めない。
紅は、心の奥にその気持ちを押し込めてリードグレンを見上げた。
「だろうね。そうじゃなきゃ、国境近くの領地からわざわざ出て来ることないし」
「おまえ等が神々に認められた巫覡である事は、俺達はこの目で実際に見て知っているが、国民のすべてがその真実を知っている訳ではないからな」
「国民には、陛下から発表された言葉しかありませんからね」
紅とて、国民の立場になって考えたら、巫の真偽を疑うだろう。≪双月の巫≫とは、それ程に重要な役割を担っているのだ。
「確かにね。で、イシュトは何て?」
「怒ってるな」
≪双月の巫≫が偽物なのではないかと詰め寄られるだけならば、イシュヴァルトはそれほど怒りはしないだろう。そんなに器が小さい男ではない。
理由は他にありそうだ。
「僕達が偽物だって言われたから怒ってるわけじゃないんでしょ?」
繋いでいた青の手に、ぐっと力が籠もる。
「……ええ」
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