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01.



【夜】が終わり【陽】を迎えたばかりのグランファードは、例年にない猛暑にみまわれていた。

「あっつーい」

茶器が置かれたテーブルにべったりと懐いた紅が悲鳴を上げる。

「紅、行儀が悪いよ」

青は口元へ運んでいた茶器をテーブルに戻しながら静かに嗜めるが、紅はそれを聞き入れようとはしない。
それどころか、小さな子供のように頬を膨らませて、テーブルに張り付いたまま青をじっとりと眺めやった。

「だぁーってぇ」

「だってじゃないでしょ?」

冷たくて気持ちが良かったテーブルだが、紅の体温に温められて直ぐに肌と同じ温度になってしまった。紅は怠そうに椅子から立ち上がると、今度はもっと冷たそうな大理石の柱にしがみついた。

「あー、気持ちいい……」

ひんやりとした柱に人心地ついたのか、紅はほんわりと笑みを浮かべた。
そんな紅を横目に、青は窓越しにもジリジリと焼け付くような日差しを降り注ぐ太陽を仰ぎ見た。
陽の日になった途端、この猛暑だ。紅の態度も判らなくはない。
日除けの意味合いと、日差しがあまりにも強すぎて目をやられてしまう恐れもあり、城中の窓という窓に紗幕が垂らされる始末なのだから。

この世界に来てから青はグランファード以外の国に未だ足を運んだ事は無いが、他国の気候もこことそう大差無い事くらいは知っている。
夜から陽へと移り変わる頃は気候が安定しないせいもあるが多少の寒暖の差はあるものの、青の知る限り、陽の日は春のように穏やかで過ごしやすいというのが通年だ。時折霧雨が降ったりもするが、それも大地に緑を芽吹かせるために必要不可欠なものである。
だが、このひと月というもの、グランファードの空は真っ青に晴れ渡り、雲の切れはしさえ見ることは叶わない。
春のような麗らかな日差しはどこへともなく消え去り、変わりに青の世界で言う真夏そのもののような日差しが大地を焼いた。
雨の恵みは無く、このひと月の間に大地はひび割れ、滾々と湧き出ていた川や泉の水位は半分以下にまで減っていた。
グランファード国内の植物は徐々に枯れ始めている。当然、農作物もその中に含まれていた。
貯水池や水流の細くなった川から飲み水や農作物を育てる為の水を確保してはいるが、このまま雨が降らなければそれも危ぶまれる。

「どうしてこの国だけ……」

他国も同様の状況下にあるのならまだ判らなくは無いが、こんな状況に置かれているの何故かグランファードだけであった。

「……なんでだろうねー」

紅は次の柱に移り涼を取りながら、青の呟きに応じた。

「セイレスもクレストも、ちっとも応えてくれないしねぇ……」

そうなのだ。
いくら呼び掛けても、双月神は青や紅の呼び掛けに応えてはくれない。それは双月神だけではない。大地の神イシュリアも同様だった。



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あきゅろす。
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