さくら【04】-4
カシッ。
ブルを引き上げて飲み口を開ける。
そっと口をつけると、ふんわりと甘いカフェオレの味。
おいし。
思わず笑みが零れてしまった。
「……っ」
隣で息を飲む気配がして、僕は彼を振り仰いだ。
「あ……いや」
何かを誤魔化すように空咳をひとつ、彼は落とした。
カフェオレの味に、気持ちが落ち着いてくる。
そうだ。
お礼をちゃんと言わなきゃ。
「あの……。助けて下さって、ありがとうございました」
僕は両手でカフェオレの缶を包み込んだまま、小さく頭を下げた。
「いや、いいんだ。俺も頭に来てたからな」
体に染み込むような、深く静かな低い声。
その声が、少し躊躇いながら、僕に問いかけてきた。
「いつも、一緒に電車に乗っているのがいるだろう。彼はどうした?」
「え、と……、今日は風邪でお休みなんです」
「そうか」
びっくりした。
だって。
まさか、彼が洋輔の存在を知っているなんて、思いも寄らなかったから。
周囲には、電車待ちの人が沢山いるのに、僕の彼の間は、とても静かに感じた。
このまま、時が止まればいい……。
そうしたら、この人は、ずっと僕の隣にいてくれるのに。
でも……。
それは、決して叶わない、夢──。
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