さくら【04】-2
僕の髪に、大学生が指を絡めてくる。
「……やっ!」
「うわー、サラサラじゃん」
「マジで? 俺も触ろー」
もう一人も手を伸ばして来た。
やだっ!
逃げたいのに、逃げ道を塞がれてるから、逃げられない。
眉をひそめるけれど、周りの人は、彼等を止めるとか注意するとかという素振りもない。
当然だよね。
刺されたりする事件が多発してる。
自分がその被害者になるかもしれないのに、他人の僕の為にそんな事をしようなんて誰も思わないよね。
駅に着くまで我慢するしかないんだ。
そう思った時、大学生の悲鳴が上がった。
「うわっ!」
「おいっ! 何すんだ、テメェ!」
僕は目を見開いた。
だって、後から手を伸ばしてきた大学生の手首を、しっかりと握り締めて止めているのは、彼だったんだもの。
「いい加減にしないか。電車には大勢の人が乗っている。迷惑だって気付け、クソガキ」
それに、と彼の視線がちらりと僕に落ちる。
「彼も嫌がってる」
低い、男らしい声。
僕を労るような優しい響き。
僕は涙の浮かんだ瞳を、縋るように彼に向けた。
[*前へ][次へ#]
無料HPエムペ!