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05




05.



「……ん」

瞼を閉じていても尚、目を刺す程の眩しさを感じて、紅は意識を覚醒させた。

(……どこ?)

いつも目覚める部屋ではないことに気付き、差し込む日差しに目を細めながら周囲を見渡す。
眠りから覚めたばかりの視界は、強い光を受けたせいもあり、霞がかかったようになっている。
室内が暗すぎてよく見えない。
紅はぼんやりと記憶を探った。

(ああ……そっか)

リードグレンの失踪を知らされた後、独りになりたいと、心配する青達に背を向けた。
がむしゃらに走って、偶然辿り着いたこの神殿で、張り裂けんばかりに泣いたのだ。
どうやら、あのまま泣き疲れて眠ってしまったらしい。
泣きすぎで腫れぼったくなった瞼を擦ってから、倒れるようにして眠っていた床から紅は起き上がった。
石造りの神殿の内部はひんやりと肌寒く、ぶるりと身を震わせる。眠っている最中に、冷えた床に体温を奪わたせいもあるのだろう。寒くて仕方がなかった。
紅は外へと続く扉をゆっくりと開く。
輝く日差しに照らし出された世界は、何事もなかったかのように終わり、そしてまた始まる。
目の上に手を翳して空を見上げる。
雲ひとつない真っ青な空がそこには広がっていた。

(……大丈夫)

気持ちの揺れるまま、流されるままに、泣きたいたいだけ泣いた。
もう、充分だ。
動揺も混乱もしていない。それどころか、凪いだ湖面のように、この空のように、どこまでも澄んでいる。

(大丈夫)

決意を秘めた瞳が、まっすぐに前を向く。


迷いのないしっかりとした足取りで、紅は歩き出した。





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あきゅろす。
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