04
ただひたすら
走って
走って
走りつづけた。
04.
どこをどう走ってきたのか判らない。
紅はいつの間にか、城内にある神殿の前にいた。
走り続けて上がった息を整え、紅は瀟洒な意匠の彫り込まれた扉を押した。
ギ……。
蝶番の軋む音が神殿内に響く。
神殿内は明かり取りの窓から差し込む陽光が踊るように揺らめき、幻想的で荘厳な雰囲気を漂わせていた。
紅は中に入り扉を閉めると、ゆっくりと祭壇へと歩み寄った。
手の込んだ、細やかな細工の祭壇の前に膝をつく。
前の世界に生きていた頃は、神様なんて信じた事はなかった。
けれど、今は違う。
この世界は、神々と人が寄り添い息づいている。
どうか──。
どうか、彼を救って欲しい。
彼の命と己の命を引き換えにしろと言うなら、紅はそれを厭わない。
青がその命と引き換えに《双月の巫》としての役割を全うしようとした気持ちが、いま本当の意味で実感できた。
「……て」
無事に帰って来て欲しい。
「……リード……」
紅の瞳から、水晶の雫が頬に零れた。
それは止め処なく流れ落ち、紅の世界を悲しみの色に染める。
「リー……ド」
堪えていた嗚咽が喉から溢れ出す。
もう、止められなかった。
紅は、誰も居ない祭壇の前に崩れ落ちた。
「わあぁぁぁぁっ!!!!」
神殿に、心を引き裂かれるような悲しみの声が響きわたった。
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