[携帯モード] [URL送信]
04
ただひたすら

走って

走って

走りつづけた。



04.



どこをどう走ってきたのか判らない。
紅はいつの間にか、城内にある神殿の前にいた。
走り続けて上がった息を整え、紅は瀟洒な意匠の彫り込まれた扉を押した。

ギ……。

蝶番の軋む音が神殿内に響く。
神殿内は明かり取りの窓から差し込む陽光が踊るように揺らめき、幻想的で荘厳な雰囲気を漂わせていた。
紅は中に入り扉を閉めると、ゆっくりと祭壇へと歩み寄った。
手の込んだ、細やかな細工の祭壇の前に膝をつく。
前の世界に生きていた頃は、神様なんて信じた事はなかった。
けれど、今は違う。
この世界は、神々と人が寄り添い息づいている。

どうか──。

どうか、彼を救って欲しい。
彼の命と己の命を引き換えにしろと言うなら、紅はそれを厭わない。

青がその命と引き換えに《双月の巫》としての役割を全うしようとした気持ちが、いま本当の意味で実感できた。

「……て」

無事に帰って来て欲しい。

「……リード……」

紅の瞳から、水晶の雫が頬に零れた。
それは止め処なく流れ落ち、紅の世界を悲しみの色に染める。

「リー……ド」

堪えていた嗚咽が喉から溢れ出す。
もう、止められなかった。
紅は、誰も居ない祭壇の前に崩れ落ちた。

「わあぁぁぁぁっ!!!!」

神殿に、心を引き裂かれるような悲しみの声が響きわたった。



[*前へ][次へ#]

11/50ページ


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!