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03-4
だが、紅は毅然とクレウィーアに視線を据えたまま逸らそうとはしなかった。青の手を握り締める紅のそれが、力を込めすぎて関節が真っ白になっているのを、イシュヴァルトもクレウィーアも気付いていた。
それでも、事実を知りたいと、目を逸らさない紅の意志を尊重する為に言葉を紡いだ。

「野盗に拉致された可能性があります」

「──っ!」

固い表情でイシュヴァルトが引き継ぐ。

「野盗に捕らえられたかどうかは定かではない。捜索の為の兵を出すよう命じたので、今頃出発している頃だろう。それとは別に隠密機動を出し、行方を探るように命じた」

リードグレンが将軍職を勤める国王指揮下の軍隊は、主に戦争や警備という、謂わば表舞台の仕事をこなす。隠密機動はそれとは別組織になり、完全なる国王直轄組織だ。
隣国の内情偵察や、秘密裏に処理されなければならない案件時など、水面下での仕事を請け負う為の部隊。
隠密機動という組織があることを、このグランファード国内で知っている者は、イシュヴァルトとリードグレン、クレウィーアのみという極秘扱いだ。そして、隠密機動に所属している人数も、その顔も、正確に把握しているのは国王一人だった。



 □■□■□



「一人にさせて」

そう呟いて、紅は部屋を出て行った。

パタンと閉じられた扉を、青は泣きそうな表情で見つめた。

「……大丈夫だ」

イシュヴァルトは青の肩にそっと手を置いた。

「紅……泣いてるの」

「……ああ」

「独りで泣ける場所、探しにいったんだよ」

「そうだな……」

「紅は強がりだから……人前じゃ、泣けないんだよ」

青はイシュヴァルトの胸に飛び込んだ。
青が紅をどれ程大切に想っているか知っている。それが『家族』としての愛情である事をイシュヴァルトが承知していても、つい嫉妬してしまうくらいに、青は紅を大切にしている。
イシュヴァルトは涙声で訴える青を、ギュッと抱きしめた。

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あきゅろす。
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