03-3
彼等の表情に、紅は一瞬感じた不安が現実になった事を知った。
「何か、あったんだね?」
固い口調の紅に、青ざめた顔をしたイシュヴァルトの視線が据えられる。
「リードに、何かあったんでしょ?」
「……ああ」
イシュヴァルトの肯定に、青が息を飲む。
振るえそうになる体と声を、紅は懸命に気力で抑えつけた。
「何が、あったの?」
紫色に変色するくらい唇を噛み締める紅の痛ましい姿に、クレウィーアの視線がそっと逸らされた。
「リードグレンの消息が不明になった」
ガタリと机が音を立てた。イシュヴァルトの言葉の衝撃に、思わずよろめいてしまった青の体が机にぶつかったのだ。
紅は青の体を支えてやると、近くの椅子に座らせた。
青の指が、縋るように紅のそれに絡まる。
「……いつ?」
紅は青の手を握り返し、静かに問いかけた。
「三日前だ。その報が我々の下に届いたのは、昼前の事だ」
リードグレンに同道していた部下の一人が、瀕死に近い状態で城へ戻って来たという報告を受けたイシュヴァルトとクレウィーアは、御典医室へと運ばれた彼の下に、急いで駆け付けた。
彼はこの三日間、飲まず食わずの上、不眠不休で馬を飛ばして城へと駆け込んで来たのだという。
三日もの間休みも入れずに、馬を全力で飛ばすというのは、馬だけではなく乗り手の体力も極限まで消費される。どんな馬鹿でもやらないような事を、この兵士はやってのけた。それは、余程重大な報告を持ってきたということになる。
荒い息の下から掠れた力のない声で兵士はリードグレンの消息が途絶えてしまった事を伝えたのだった。
イシュヴァルトとクレウィーアは急遽会議を開き、これからの行動を決めつつ、リードグレンの捜索の手配をして、ここにやって来たのである。
紅に、伝える為に。
二人が昼食に現れなかった理由は、これだったのだ。
知らなかった事とはいえ、呑気にお茶など楽しんでいた己を、紅は激しく悔やんだ。
あの時に様子を見に行っていれば、少しでも早く判ったのに。
知ったところで、紅に何ができる訳でもない。何もできない事に、言い知れない歯がゆさと不甲斐なさを感じるだけだというのも解っている。
だけど。
それも、何も知らなければ感じることのできない感情だ。
噛み締める唇に血が滲み、口内にじわりと血の味が広がった。
「詳細は不明ですが、野盗に襲われて応戦しているうちに、リードの姿が見え無くなったらしく……」
紅の様子をじっと観察しながら、クレウィーアが事情を説明していく。もし、紅が聞く事を拒否するような素振りを見せれば、クレウィーアは口を閉ざすつもりだった。
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