03
03.
「そろそろ、戻って来る頃だね」
眠りに就いた赤ん坊を青が静かに寝台に寝かせるのを、紅はお茶を飲みながら見つめた。
「予定では明後日だけどね」
青が席に着くのを待って、紅は新しい茶器にお茶を注いだ。
「ありがと」
リードグレンがイシュヴァルトの命を受けて国境付近まで視察に向かってから、ひと月が経過しようとしていた。
「ひと月も離ればなれになって、寂しくない?」
「そりゃ、寂しいよ。けど、仕事だから仕方がないし」
「そうだよね……」
青は馬鹿な事を訊いたという雰囲気で、紅の淹れたお茶を口に運んだ。
(できるなら、僕だって、一緒に行きたかったよ)
リードグレンに着いて行けるだけの剣術が、この身に付いていたならば、迷わず紅は共に行くことを選んだ。
だが、今の紅では、もしもの事があった場合、足手まといにしかならない。だから諦めた。
「……ごめんね」
「青が謝ることじゃないでしょ?」
「でも……」
好きな人と離れる辛さを知っているから、青は不用意な自分の発言を悔やんでいるのだ。
「でももクソもないの」
ぴん、と青の額を指で弾く。
「いたっ!」
弾かれた場所に手を当て、青が涙目になる。
「青にそんな気を使われるようになったら、お終いだよ? 解ってる?」
「うーっ」
「『うーっ』でもないの」
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