さくら【04】
翌日になっても、洋輔の熱は下がらなかった。
「ごめんねぇ、さくらちゃん」
おばさんが謝ってくれたけど、謝らないとダメなのは、本当は僕の方なのに。
「洋ちゃんに、お大事にって伝えてね」
おばさんにペコリトとお辞儀して、僕は一人駅へと向かった。
いつもの電車に乗り込むと、今日も、あの人は居た。
僕は、駅に着くまでの間、彼をこっそりと何度も盗み見る。
いけないことだって解ってるけど、勝手に目が彼を追い求めるんだもん。
次の駅で、初めて見る人達が乗ってきた。
大学生っぽい二人組の男の人達は、僕を見下ろして、おっ、という表情(かお)をした。
ドアが閉まり、電車が動き出す。
逃げ場を無くすように、彼等は僕を端に追い詰める。
それなりに人の乗っている電車なので、周囲の人が迷惑そうに眉をひそめるのにも、彼等は構う様子はない。
「可愛いねぇ」
「名前何て言うの?」
僕……の、名前?
もしかして、僕、ナンパとかされてる?
「……え? あの、僕、男ですけど……」
学生服を着ていても、たまに女の子と間違われる事があるから、念の為に言ってみる。
「だーいじょうぶ。判ってるから」
「『僕、男です』だって。声も可愛いねぇ」
にやにやと、イヤらしい笑いを口元に貼り付かせた大学生が、壁に手をついて僕に顔を近付けてきた。
やだ……。
気持ち悪くて、顔を背けた。
視線の先に、驚いたような、怒ったような、何とも言えない彼の顔があった。
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