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02
そんな穏やかな日に、暗雲が立ち込め始めた。



02.



「聞いたか」

リードグレンが執務室に入ってくると、イシュヴァルトは書類に落としていた視線を上げた。

「ああ。賊が横行してるって?」

備え付けられた椅子に腰を降ろし、リードグレンは少し深刻そうに応えた。

「そのようだ」

「ここまで上がってくるとは、よっぽどだな」

盗賊や野盗の類のは、それぞれの領主の管轄になり、自身の裁量で処理するべきものだ。
だから、領民が被害を受けているのを知った領主達は手を組み、情報を交わし合って何とか盗賊を捕まえようと試みた。
だが、全て失敗に終わってしまった。
打つ手打つ手を悉くかいくぐり、領主達を嘲笑うかのように、盗賊は好き放題暴れまわる。
そして、盗賊はとうとう中心部──主都へと向かって少しずつ範囲を広げ始めたのだ。
こうなってしまえば、もう領主達の手には負えない。
そこで周辺の領主達への注意勧告と共に、早馬を城へと出したのだった。

「視察に行くべき、だろうな」

うん、とリードグレンは伸びをして椅子から立ち上がった。

「行ってくれるか」

「ああ」

俺以外に誰が行くのだと言いたげな表情に、イシュヴァルトは苦笑した。

「部下に任せてもいいんだぞ?」

「いや、俺が行った方がいいだろう。何が起こるか判らないしな」

確かにそうだ。
リードグレンならば、どんな状況に陥っても柔軟に対処できるだろう。

「任せた」

「ああ」

ふ、とお互いに視線を交わして笑みを浮かべる。
幼馴染みとしての気安さと信頼が、そこには滲み出ていた。

「──しかし」



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