01-2
青の言葉を聞き取ったかのように、今までぐっすりと眠っていた赤ん坊が、ふと、目を覚まして泣き始めた。
「ね、青。そろそろお乳の時間じゃないの?」
「うん、そうみたい」
ぐずり始めた赤ん坊を抱き上げて、青はよしよしとあやす。
ふたりの会話を聞いたイシュヴァルトが、ふたつある呼び鈴のひとつを取り上げた。
控えの間に控えている者を呼ぶためだ。
呼び鈴がふたつあるのには訳がある。
子供を産むことはできた青だったが、男性により近い体だった為か、母乳が出ることはなかった。
そこで乳母を雇った。
最初は女官を呼ぶ為の鈴を併用していたのだが、呼び鈴を鳴らす度に、どちらが呼ばれたか判らない女官と乳母は、連れ立って現れるようになった。
これでは彼女達がかわいそうだと、青が呼び鈴を分けることを提案したのだ。こうすれば、どちらが呼ばれているかは音を聞き分ければ判る。
今までは、どちらを呼んでいるのだろうかと困惑ぎみに姿を現す彼女達にとっても、これはありがたかった。
「お願いします」
姿を表した乳母に、青は赤ん坊を渡した。
王妃である青に丁寧な態度に乳母は最初はかなり恐縮し、ぎこちなかったが、それも少しずつ落ち着いてきたようだ。乳母もまた丁寧なお辞儀を返して、赤ん坊を預かると退出していった。
「そう言えば、名前はもう決めたのですか?」
後ろ姿を見送っていたクレウィーアが、体を元に戻しながら問いかけた。
「ううん。まだなの」
「どうしてだ?」
子供の誕生を心待ちにしている親ならば、どちらが産まれてきてもいいように、男女両方の名前を考えておくのが普通だ。
「いくつか候補はあるんだけど……」
と、青はちらりとイシュヴァルトを見やった。
「どうせ、イシュトが決めかねてるんでしょ?」
言いにくいのか、言葉を濁している青に、紅は助け舟を出した。
「……うん、まぁ」
青は曖昧に肯定した。
リードグレンとクレウィーアは、ああと納得の表情で頷いた。
この親バカっぷりではな、と、どちらの顔も語っていた。
「仕方なかろう。名前はその子の一生を左右する程の大切なものだ。安易には決めれん」
「そりゃそうだが……」
「だけど、生まれてひと月も経っているのに、まだ決められないってのも問題だと思うけどね」
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