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01.
『陽』の季節を迎えたとはいえ、まだ少し肌に感じる空気は冷たかった。
生まれたての赤ん坊には外の空気は良くないだろうという結論に達した彼等は、窓からの景色のよい部屋を選んで、日課と化している昼食会を開いていた。
グランファード国王イシュヴァルトは、穏やかな日差しの中、似つかわしくない溜め息を零す。
その表情には、どこか疲れた色が滲み出ている。
無理もないだろう。
沢山の臣下に支えられているとはいえ、一国をその肩に背負うのは並大抵の事ではない。だからこそ、心を癒やしてくれる存在が何よりも必要なのだ。
(解ってるんだけど……ね)
紅はそう思いながら、食後のお茶を口に運んだ。
そう、解っている。
青と共に、国政にあたる彼等を間近で見ているのだから。
だが。
疲れた表情で溜め息を吐いたイシュヴァルトが、その後に見せただらしない顔に、紅はこっそりと嘆息をもらした。
(とても他の人には見せられないよね……)
茶器を元に戻すと、紅は行儀が悪いと判っていたが、テーブルに頬杖をついた。
傍らに置かれた乳幼児用の寝台。
そこに寝かされているのは、生まれたばかりのイシュヴァルトと青の嬰児(みどりご)だ。
気持ち良さそうに眠る顔を眺めて、イシュヴァルトは締まりのない表情を見せた。
小さなもみじのような手のひらに自身の指を忍ばせる。条件反射できゅっと赤ん坊が指を握り締めると、溶けるような笑みを浮かべた。
(まさか、ここまで子供に甘いなんて思わなかったよ)
先が思いやられる。
イシュヴァルトを観察していたが、いい加減馬鹿らしくなってきた。
紅は視線を外に向けた。
窓の外は、ぽかぽかと陽が当たっている。
『夜』の間に降り積もった雪は、『陽』を迎えてその姿をすっかり隠してしまったようだ。
「紅、お行儀悪いよ」
青が紅の頬杖に気づいて注意した。
「はぁい」
悪戯をしようとしている最中に見つかった子供のように、紅は、ペロリと舌を覗かせた。
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