洋輔【01】-2
おまえ、よく痴漢に遭わなかったよな……。
もしかしたら、不可侵条約みたいなものが、暗黙の了解で出来てたりしてな(笑)
俺と居るからか、さくらは昨日の事が嘘だったかのようによく笑う。
そんなさくらを見つめる視線の中に、俺は目的の人物らしい男を見つけた。
「あいつか?」
耳元に囁くと、さくらは嬉しそうに、けれど、少し悲しそうに肯いた。
なる程。
エリートサラリーマンといったところか。
俺からしたら、嫌味なくらいの男だがな。
ちらりと視線を向けると、焼き殺さんばかりの嫉妬にたぎった瞳で俺を睨み付けてくる。
ああ、やっぱりな。
嫌われてるなんて、さくらの勘違いだ。
相手もさくらの事を気に入っている。
いや、気に入っているなんて可愛い表現は可笑しいか。
完全に惚れてる。
バカだなぁ、さくら。
だけど、俺から告げてやるのは何だか悔しいから、黙ってる事にした。
第三者が口を挟むことじゃないしな。
学校の最寄り駅に到着するまで、俺は嫉妬の渦に揉まれ続けることとなった。
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