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01
夜の帷に包まれた城は、静寂の中にひっそりとその姿を隠していた。

夜空には、満ちた双月が小さな月を守るように横に添いながら、煌々と輝く。
淡い月の光は、グランファード全体に降り注ぎ、国中の人々にひと時の安息をもたらしていた。



城の再奥にある国王の私室の窓から、寝椅子に身を寛げて空を見上げていた青は、腹を蹴る感覚にその視線を下に向けた。


「あ……動いた」


はちきれんばかりに大きくなった腹を撫でさすりながら、青は嬉しそうに笑う。
ここまで大きくなるまでの間にも何度も経験した事だが、胎児が元気な証をみせるのは、やはり嬉しいものだ。産み月が近付いて来るほどに胎動は強くなり、今では青が痛いと感じるくらいに強く蹴られたり殴られたりする。
生きているんだ、順調に大きく育っているんだと、青を安心させてくれるのだ。

近くの寝椅子で青と同じ様に寛ぎ、酒杯を片手に書類に目を落としていたイシュヴァルトは、その呟きに読みかけの書類から目を離した。
サイドテーブルに書類と酒杯を置くと、のっそりと起き上がり、まるで女王にかしずく騎士のように青の前に膝をつく。


「どれ」


大きな手のひらが腹を両側から包み込み、胎動を確認しようとする。
だが、しばらく待ってみても、腹の中の赤子は再び動くことはなかった。


「……動かないぞ?」


眉間に皺を寄せて、両手で包んだ腹を凝視するイシュヴァルトに、青はくすりと笑みを零した。


「急に大きな手に包まれたから、きっとビックリしてるんだよ」


「そうか?」




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あきゅろす。
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