15 「助けは来ぬ」 覇久毘の言葉に、珠華の抵抗がぴたりと止んだ。 助けは……来ない。 現実を、突き付けられたような気がした。 どれだけ求めても、誠志には届かない。 「そう……それでいい」 大人しくなった珠華の内着を、覇久毘はゆっくりと開いて行く。 日に当たらない体は、透けるような美しい肌をしていた。 ぞろりと胸を、節ばった男らしい大きな手のひらで撫でられる。 珠華は、放心したように虚ろな瞳で寝台の天蓋を眺めていた。 「美しい……」 覇久毘の漏らす感嘆の声も耳に入らない。 嫌悪から生理的に浮かぶ涙が、頬を流れ落ちていく。その感触を追うように、珠華は視線を横に向けた。 ちかり と、朧な視界に何かが光って見える。 な…に……? それが何かを見極めようと、意識をそちらに向かわせる。 寝台の横に置かれている小棚の上に、燭台があった。 あれ…じゃない。 もっと……。 燭台の足元に、果実の盛られた籠があり、その中に果実を剥く為の小刀が添えられていた。それが燭台の光を反射して輝いていたのだ。 輪郭がぼんやりしてはっきり判らないそれが、小刀だと判った珠華は、咄嗟にそれを握り締めた。 「つっ!!」 覇久毘が小さく呻く。 鋭い痛みが頬を襲ったのだ。 拘束が緩んだのをみて、珠華が寝台の端までさっと逃げる。 「珠華……」 赤く染まった手のひらを、覇久毘は珠華に伸ばす。 「近寄らないで下さい」 両手にしっかりと小刀を握り締め、珠華が呟く。 「それを、放しなさい」 放す訳にはいかなかった。 覇久毘に体を差し出す事は、珠華にはどうしても出来なかった。 心に、誠志がいる限り──。 このまま覇久毘に無理矢理体を開かれるくらいなら、いっそ。 珠華は鋭い刃先をゆっくりと喉にあてがう。 「よせっ、珠華!!」 躊躇いはなかった。 両手に力を籠めると、一気に貫いた。 「珠華!!」 覇久毘の悲鳴にも似た声が脳に響く。 ──誠志。 すうっと体が冷たくなって、意識が薄れていく。 「珠華、珠華っ!!」 切迫した覇久毘の呼び掛けが聞こえるけれど、珠華にはどうでもよかった。 鮮血に染まった寝台の上に、珠華はゆっくりと倒れ臥した。 [*前へ][次へ#] |