03-4
「……いいの?」
「?」
「僕で、いいの?」
今にも泣き出しそうに、青の顔がくしゃりと歪む。
「僕が……イシュトの奥さんで……いいの?」
見上げてくる瞳の中に、イシュヴァルトは不安の色を読み取った。
「セイ……」
イシュヴァルトとはまた違う意味で、青も不安だったのだと。
「イシュトには、婚約者がいるんじゃなかったの?」
イシュヴァルトは、はっとした。
どうして青が、イシュヴァルトは話した事もない婚約者の存在を知っているのか。
「僕、知ってるよ。ここ二、三ヶ月の間、他国からイシュトに姫を是非にって言って来てるの」
「……それでも、私はセイを選ぶ、と言ったら?」
瞳に溜まって零れ落ちそうにる涙を、イシュヴァルトは唇でそっと吸い取った。
「顔も知らない婚約者よりも、どれだけ美姫と謳われる姫よりも、私はおまえがいい」
イシュヴァルトが抱いている真摯な想いを、言葉にして伝えるのは難しい。言葉とは時には不自由なものだ、とイシュヴァルトは思った。
(この胸を切り開いてその想いが見えるのなら、セイに見せてやるのに)
羽根のように優しい接吻を、イシュヴァルトは青の頬や瞼に落とした。
「セイが結婚を承諾してくれるまで、私は独身を貫こう」
婚約者を正妃に迎え、青を側室にすることが、誰もが妥協出来るギリギリの境界線だ。ただし、それにはイシュヴァルトと青さえ我慢すれば、という何よりも厳しい条件がつく。
青は、イシュヴァルトがそう答えを出せば、文句も言わずに従うだろう。
だが、イシュヴァルトは青を日陰の身にするつもりも、ひっそりと独りで涙流させるつもりも毛頭ない。
国王の愛妾の何が不満だ、とても栄誉のある事じゃないか、と反対派なら言い兼ねないが、栄誉だとかそういう問題ではないのだが、彼等には、それが理解出来ないようだった。
己の意志を貫く為には、側近の力添えが何よりも大切になってくる。
ありがたいことに、主だった重要職に就く者達の殆どが、イシュヴァルトの味方になってくれている。
「セイ、返事は?」
愛おしさを隠そうともしないイシュヴァルトに、青はとうとう泣き出してしまった。
ぎゅっ、とイシュヴァルトの首に腕を絡めて抱きついた。
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