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08
五日の行程を得て、珠華は漸く帝都紫翠(しすい)に着いた。

素朴な村とは一変した華やかな街並みに、珠華は圧倒されてしまった。
はっきり見えない瞳にも、色彩の鮮やかさは判る。
人も多く、活気に満ちあふれていた。
街とは、都とは、こういうものだと想像していたが、それを遥かに凌いでいた。

物珍しさに車窓から暫く流れる景色を眺めていた珠華は、ふと、疑問が頭を過ぎった。
蒼清は一週間前に村から都に戻って行った。片道に五日もかかるのに、どうやって再び村にやって来る事が出来たのか、珠華は不思議でならなかったのだ。
疑問をぶつけると、

「あなたがいるから、ゆっくりとした行程で進んだのですよ」

何でもない事のように答えてくれた。
蒼清は三日で村から都に帰り、馬車を準備してとって返すように村に戻ったのだという。
単独の騎馬よりも馬車の方か速度が微妙に遅いのを見越して、一日早く都を出たらしい。
そこまでして貰う価値など自分にはないと思うのだが、彼等はそうは思っていないようだった。

「このまま行天宮(ぎょうてんぐう)に向かいますが、構いませんか?」
行天宮とは、皇帝の居城のことだ。
少しくらいなら、寄り道しても構わないよと蒼清は言外に含ませるが、誠志が共に居るなら兎も角、ひとりで都を見たところで大して楽しくもないだろうと、珠華はかぶりを振った。

「そうですか?」

蒼清もそれ以上は勧めなかった。
どうやら空元気を見せる珠華を、それなりに気遣ってくれていたようだ。

誠志と離れて五日。
たった五日の距離と考えるか、五日もかかる距離だと思うかは、気持ち次第だ。
生まれてこの方、誠志と離れ離れになったことすらなかった珠華には、堪らなく寂しく長い時間であり、無限の距離に感じた。
この五日、毎夜のように枕を濡らした。

逢いたい。
手を、繋ぎたい。

他になにもいらない。

それ以上は、何も望まないから……。

淡い想いに、胸が悲鳴を上げる。
こんなことじゃ駄目だと頭では判っているのに、気持ちが納得してくれない。
これから先、もっと長い時間を、誠志と離れたまま過ごさなければならないのに。

珠華は蒼清に隠れるようにして唇を噛みしめていた。

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