03-2
本来なら、青は側室達が住むべき奥宮に置かれなくてはならない。
正妃には国王の部屋に近い場所に部屋を与えられ、そこに住まうことを許されるのだが、寵愛を受けた愛妾が本宮に住居を設けることなどありはしない。
青を国王の私室に入れるという話を持ち出した時は、当然、猛反対にあった。
イシュヴァルトに近しい者達は、イシュヴァルトがどれ程青を愛しく思っているかを知っている。彼等や青に好意的な者達の賛同がなければ、どれだけイシュヴァルトがそうしたいと望んでも、叶いはしなかっただろう。
滑らかな頬に指を滑らせる。
「……ん」
正直な話、《双月の巫》とはいえ、どこの馬の骨とも知らぬ青を正妃に据えることを、反対している輩は少なからずいる。
彼等の価値は血統が全てだ。
誰が産んだかも知れない異世界の、しかも、子供を孕めるかどうかも判らない青よりも、きちんとした血統を持つ女性を、他国なり国内の有力貴族から娶れと進言して来ている。
それで青を守れるならば、と、顔も見た事のない婚約者を受け入れようと、一時は思ったりもした。
だが、やはり駄目なのだ。
心が青を、どうしようもなく求める。
他の誰かをこの腕に抱くなど、イシュヴァルトには考えられなかった。
「う……ん」
さらりと髪を指で梳く度に、可愛らしい青の声が上がる。
(守ってみせる。どんな事があっても)
髪を一房掴み、そこにそっと唇を落とす。それは恭しく、神聖な儀式のように見えた。
「ん……イシュ……ト?」
「すまん、目を覚ましてしまったか」
あまりにも髪や頬に触れるから、青の意識が眠りから覚めてしまったようだ。
「……お仕事、終わったの?」
眠そうに瞼を擦る青に、イシュヴァルトの心がこんなにも癒されているなど、反対派の彼等は知ろうともしない。
「ああ」
くすりと笑んで、イシュヴァルトは青の額に接吻した。
「セイ」
「……なぁに?」
「そのままでいいから聞いて欲しい」
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