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寝静まってひっそりとした廊下に、靴音が響く。
配置されている夜警の兵士たちは、靴音の主の姿を認めると、きびきびとした動きで最敬礼をした。
イシュヴァルトはその間をすり抜けて部屋の扉をくぐった。
控えの間を抜けて、居間へと向かうその後を、控えの間に待機していた女官がひっそりと従う。
イシュヴァルトが椅子の背に投げ捨てた上着を、女官が恭しく持ち上げ、衣装部屋へと持ち去って行った。
イシュヴァルトはどかりと椅子に身を投げ出した。深い溜め息が自然と唇が落ちる。
肉体的にはどうということはないが、精神的な疲れが、どっと押し寄せて来たのだ。
あの後、クレウィーアが持ち込んだ書類を処理していたら、気がついたら深夜になっていた。
イシュヴァルトは寝室の扉へ目をやった。
(セイは眠ったのか)
首が苦しい気がして、指先で襟元をくつろげる。
「御用は御座いますか?」
衣装部屋へと上着を運んで行った女官が戻って来る。
「いや。下がってくれ」
「はい。おやすみなさいませ」
「ああ」
女官は丁寧にお辞儀をして退出して行った。
椅子にだらしなく腰掛けていたイシュヴァルトは、ゆっくりと立ち上がると、飾り棚に置かれた酒の瓶を取り出した。
飾り棚には、最高級と言われる各国の酒が陳列してある。
イシュヴァルトはグラスを使わず、直接それを口に含んだ。
半分程を飲み干すと、体内の腹の辺りからじんわりとした熱が生まれる。
空きっ腹に酒を入れたので、回るのも早い。
イシュヴァルトはふらりと立ち上がると、寝室の扉を開いた。
月明かりに照らされた室内に、天蓋付きの寝台が浮かぶ。
窓側は月明かりで眠りを妨げないよう緞子が引かれているが、扉側は紗幕が引かれているだけである。
燭台に火を灯すと、イシュヴァルトは寝台に歩み寄った。
紗幕を開き、寝台を露わにする。
燭台の薄明かりに、すやすやと心地良さそうな眠りに就く青の姿があった。
イシュヴァルトの口元に自然と笑みが浮かぶ。
頬にかかる髪をそっと払ってやると、青はくすぐったそうに身をよじった。
イシュヴァルトはじっと青を見下ろした。
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