02-2
「俺は、コウからそんな話を聞いた事がないからな。セイがコウに話さない筈はない。という事は、セイも知らないということになる。俺から話す訳にもいかないし、黙ってたんだが……」
国にとっても正妃を迎えるというのは、重要なことだ。
国を象徴する王の結婚である。国外からも招待客を招き、盛大な式典を行わなければならない。外交の手腕を問われる問題でもある。
それなのに、どうやらこの国王は、当の結婚相手に求婚もせずに婚儀を挙げるつもりだったらしい。
頭痛を感じて、クレウィーアはそっと額に手を当てた。
「で。どうなんです、陛下?」
「いや、まぁ……」
「いや、まぁ……じゃないでしょうが! ここまで準備を進めさせておきながら、主役のおひと方はその事実を知らないとは。目処がついたら、式典の作法や流れを頭に入れて頂かなくてはならないというのに。まったく、あなたときたら」
(始まった……)
イシュヴァルトとリードグレンは、こっそりと目を見交わした。
今でこそ、宰相だの将軍だのと、イシュヴァルトに忠誠を誓う家臣という立場にある二人だが、彼らは幼少からの遊び仲間である。
リードグレンは、イシュヴァルトの父親である前国王の妹が公爵家に降嫁して産んだ子供で、イシュヴァルトとは従兄弟同士になる。
一方のクレウィーアの方はというと、イシュヴァルトの乳幼児期の乳母を務めていた女性が産み落とした子供だ。乳母とはいえ、きちんとした貴族の出身で、その時期に授乳可能だった貴族女性の中から、人格、教養等を事細かに吟味した結果、選ばれた女性である。
彼らはイシュヴァルトの遊び相手として、小さな頃から城に上がっていた。
同年代の子供と遊ばせたいという、前国王夫妻の教育故であった。
お互い知らない事はないというくらい親密な友人関係を築いていたが、前国王が退位し、イシュヴァルトが戴冠してからは状況が変わった。役職をいう名のしがらみと、国内外への形式が必要だった為もある。
国王に対して、「おまえ」だの「おい」だのとは流石に言えない。もし言っているところを聞かれでもしたら、国の威信に関わる。
だが、やはり簡単に関係は変わらない。ふとした折に、それが顔を覗かせる。
その一端がこれだ。
クレウィーアは、やんちゃな二人を諫める役目を担っていた。と言うよりも、クレウィーアしか止める人間がいなかったのだから仕方がない。
思慮深く落ち着いた性格だったのが災いした。
クレウィーアは事ある毎に、ふたりに懇々と説教したものだった。
そんなクレウィーアの説教を神妙に聞くふりをして、いつまで続くか判らない話に、二人はひっそりと苦笑を零した。
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