01-3
(気を引き締めなきゃ。青の体の変調もあるし……)
紅は幸せで、どこか浮かれている自分がいることを自覚した。
胸の内に過ぎった考えが、もし青の身に起こっているとすれば浮かれてなどいられない。
「そろそろ時間だ」
リードグレンが席から立ち上がり、イシュヴァルトの意識を仕事へ向けようとする。
イシュヴァルトは諦めたように溜め息を零した。
「その皿の上のものは食べろ、いいな」
「僕がちゃんと食べさせるから、安心して」
立ち上がったものの、青を心配して中々仕事へと向かえないイシュヴァルトに、紅は任せるようにと頷いた。
その言葉に少しは安心したようだが、イシュヴァルトは、いかにも仕方なさそうにリードグレンに引っ張られながら席を後にした。
「青、食べられる?」
「……食べたくない」
心なしか青白い顔をして、青は食べかけの料理の乗った皿を遠ざけた。
「気持ち悪い……」
やはり、という思いが紅の中に浮かんだ。
先程はイシュヴァルトやリードグレンが居たので、迂闊なことは言えないと口を噤んでいたのだ。
「気持ち悪いって、匂いが気持ち悪い?」
なぜそんな事を訊くのかと不思議そうにしながら、青は肯定した。
「……ねぇ、最近やたら眠くなったりしない?」
「うん。多分風邪のせいだと思うんだけど」
真剣な表情になってじっと見つめてくる紅を、青は戸惑ったように見つめ返した。
「もしかして、できたんじゃないの?」
「できた、って何が?」
紅が何を言いたいのか、青には判らなかった。
「赤ちゃん」
ヒュッと青の喉が鳴った。
先程の複雑な表情は、これを言いたかったのだと青は遅ればせながら気付いた。
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