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06-2
紅は、賑わいの傍らに腰を降ろし、喉を潤した。

旅人に慣れた筈の町人達だったが、艶のある漆黒の髪と左右色の違う瞳を持った、すらりとした体躯の若葉のような瑞々しい若者に、ちらちらと視線を走らせていた事に、当の本人は気付いていなかった。
そしてその中に、ねっとりと獲物を狙うような視線が混じっていることも。

(これから、どうしようかな)

宿屋が多いこの町なら、仕事を得るのはそう難しくはないような気がする。

(手当たり次第にに当たっていくか)

歩き疲れた体に鞭打つように立ち上がると、紅は宿屋が集まっている通りへと足を向けた。





人気がなくなった細い路地に差し掛かった時だった。
三歳くらいの小さな子供がぽつんと路地に佇んでいた。不安そうに大きな瞳を彷徨わせ、小さな手は、自身の衣服をしっかりと掴んでいる。

「どうしたの?」

紅は今にも零れ落ちそうな涙を拭ってやった。
子供はくしゃりと顔を歪ませた。誰も通らない事にかなり不安を抱いていたようだ。
泣くまいと必死になる辿々しい子供の話を整理すると、朝市に母親と来たが、どうやらあの喧騒ではぐれてしまったらしかった。

「そっか。じゃあお母さん探しに行こっか」

うん、と頷く子供を安心させるようにその手を繋いで、元来た道を引き返そうと踵を返した。

紅達が行こうとする方向から、二人の町人の影が見えた。もしかしたら、母親に頼まれて子供を探しに来たのかもしれない。
ほっとして紅は声を掛けようと近づいた。

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あきゅろす。
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