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06
けたたましい産声を上げて生まれ落ちた赤子のように、鮮やかな朝焼けが空に満ちていた。


06.



(まだ、あんなところに城が見える)

紅は振り返って聳え立つ城の尖塔を見上げた。

城を抜け出したのは空が白み始める前だったのだが、馬などの足を確保するだけの余裕がなく、ここまで歩いて来たのだった。

「はぁ」

紅は足を止めて溜め息を吐いた。

(こんなに計画性がなかったなんて……)

衝動に駆られて抜け出したせいで、食料も飲料水も、路銀すらも持ち出さなかった。
お陰でどこかの宿屋に部屋を取ることもできない。

行く場所も当てもなく、紅は途方に暮れた。

(取り敢えず、どこかの町で仕事を確保しないと)

仕事がなければ生活する金も手に入らない。
どうにかして仕事を手にしないと、と紅は再び歩き出した。

陽が昇り、青が目を覚ませば、紅がいないことに気が付くだろう。
捜索の手が伸びる前に、できるだけ遠くに行ってしまいたかった。

(青……心配するだろうな……)

脳裏に泣き顔が浮かんだが、振り切るように紅は頭を振った。

(青に頼っちゃダメだ。どうせ、いつかは別々の人生を歩まなくちゃダメなんだから)

紅は前を向いて、ひたすらに歩き続けた。





陽が昇りきった頃に、紅はようやく町に着いた。どのくらい城から離れた町なのかは判らないが、歩き通しの足は、これ以上前に進んでくれなかった。
町とはいえ、それなりにの大きさを有している。大規模な『街』と、小規模な『町』の境くらいの規模だろうか。
朝市のかかる通りには、沢山の人が行き交い、賑わっていた。
宿場も多く、その為に旅人の姿も頻繁に見かける。どうやらこの町は、旅立ちの起点となっているかららしい。どこへ向かうにしても、地理的にきっと便利なのだろう。
そのせいなのか、ありがたいことに、町には旅人や町人の為に水飲み場があちらこちらに設置されていた。

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