05
紅の姿がイル=ファールの城から消えたのは、翌朝の事だった──。
05.
最初に気づいたのは、青だった。
同室なのだから、当然と言えば当然だろう。
青は紅の姿が部屋にないことを知ると、イシュヴァルトの元へ走った。
イシュヴァルトは青から事情を聞くと、直ぐ様リードグレンとクレウィーアに召集をかけた。
そして今に至るのである。
「無茶をする」
イシュヴァルトは執務用の椅子に深く腰掛けて、溜め息を零した。
「……ごめんなさい」
「おまえが謝ることはないさ」
虫の羽音のような微かな声で謝る青に、イシュヴァルトは優しい笑みを浮かべた。
「……でも、僕がもっと早くに気付いていれば……」
様子がおかしい事に気付いていたのだから、もっと注意を払っておくべきだったのだと、青は後悔していた。
「……ったく、あの莫迦は」
朝日が燦々と降り注ぐ窓から景色を眺めながら、リードグレンは腕を組んで呟いた。
「クレウィーア」
「はい」
「病気でも何でも構わない。この城からコウが居なくなった事を隠し通せ」
「御意」
「リードグレンはコウを捜し出せ。名目ならいくらでも与えてやる」
「この身に変えても──」
イシュヴァルトに言われまでもなかった。
もし、城に残れと言われたとしても、リードグレンは紅を捜しに行くつもりだったのだ。
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