03-3
「……なんだって?」
リードグレンは己の声が震えるのを感じた。
「紅は、元の世界に帰るつもりみたい」
青の言う元の世界とは、この世界とは異なった空間にある世界だ。
そんな場所に逃げ込まれたら、リードグレンは永遠に紅を手に入れる事ができなくなる。
そんな事が可能なのかと、リードグレンは青に視線で問い掛ける。
「帰れるかどうかは、僕にも判らない……巫覡のことも……」
リードグレンはじっと肯いた。
巫覡が途中で役目を放棄するなど、あっていい筈がない。
「紅は、途中で投げ出したりするような性格じゃないのに……」
そうしなければならない程、紅は追い詰められているという事だろうか。
「巫覡の話を持ち出して、思い直すように説得してみたけど……あの様子じゃ諦めてないみたい」
「──冗談じゃねぇ」
そう、冗談ではなかった。
紅が青と共にグランファードに訪れてから、半年になる。
リードグレンはずっと紅を見つめて来たのだ。
紅の態度から、それなりに脈はあると思っていただけに、今更諦めなどつかない。
「巫覡の事だって……昔と今とでは状況が違うから、何とかなるって思ってるかも」
「判るのか?」
「同じ環境で育ったせいかな。基本的な思考は紅と似ているんだ」
絶対とは言い切れないが、だいたい考えそうな事は理解できるようだ。
「なる程な。で、コウは何故逃げようとする?」
「逃げる?」
青は首を傾げた。
どうやらこの仕草は、彼の癖のようだ。
「俺には、コウがここから逃げたがってるような気がして仕方ないんだがな」
青は唇に指先で触れ、考える仕草をした。
「それは、思いつかなかったたけど……言われてみれば、そうかもしれないね」
「……青の許可も得た事だし、逃がすつもりはないぞ」
ふ、と青が笑う。
「うん。紅をよろしくお願いします」
「ああ」
リードグレンは強い覚悟で肯いた。
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