04
古紙の独特の匂いが満ちる室内に、紅は静かに腰を降ろしていた。
04.
パラパラと紅は本を捲っていた。
(暗いな……)
あまり明かり取りの窓が大きくないのは、本が痛むのを和らげる目的があるのだろうが、読むには不向きな作りだ。
紅は溜め息をひとつ零して、本を閉じた。
手当たり次第に本を探してみたが、紅が知りたい事は何ひとつ載ってはいなかった。
青が、自分達が《双月の巫》だと知ったいわく付きの文献も漁ってみたが、やはり無駄だった。
(当然か。初代の《双月の巫》は、元の世界に帰らなかったもんね)
彼等は、この地に帰ったのだ。覚悟を決めた青のように。
青と紅に白羽の矢が立ったのは、単なる偶然にしか過ぎない。
《双月の巫》となる絶対条件は、男女の双子。
絶対的条件のもと、時間等の様々なタイミングが合致した結果が、青と紅だっただけだと、紅は考える。
(そうじゃないと、何も取り柄のない僕達が、選ばれる筈がない)
どこにでもいる、普通の高校生に過ぎないのだから。
その偶然が、運命だというならば、そうなのかも知れないけれど。
現に青はグランファードを救った。
青がここに来たのは必然だったかもしれない。
だが、自分はどうだろう。
巫覡として何の責務も果たしてはいない。
ここに居る事が紅の巫覡としての役目だと言うが、絶対にここに居なくてはならないのだろうか。
青は、初代のように石柱に封じられている訳ではない。だから、天の神々に捧げる祈りを、片割れが受ける必要はないのだ。青自身がその身に受け、それを天に解き放てばいいのだけのこと。
昔と今とでは状況が違う。
巫覡はもう、必要ない。
だから、元の世界に帰ろうと思えた。
その為に、こうして文献を漁っているのだ。
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