02
夜の衣を纏った空は、その身に飾った碧玉と紅玉の美しい宝玉を惜しげもなく晒す。
今宵は満月だ。
どちらの月も淡い輝きを大地に降りそそぎ、寝静まる大地を優しく包み込む。
02.
夜着に着替えた紅は、窓越しにそれを見上げていた。
「どうかしたの、紅?」
寝台の端に腰掛けながら、同じ様に夜着に袖を通している青が、紅の背に問い掛ける。
「なんでもないよ」
うっすらと笑みを浮かべて紅が振り返る。
他の者ならそれで納得するだろう。だが、双子の青にはそうはいかない。
「嘘。だって何か変だよ、昼間から」
「やっぱり、青には隠し事できないよね」
紅は小さく溜め息を吐くと、青の傍らまで行き、隣に座った。
「青はさ、帰りたいと思う?」
「元の世界に?」
そうだ、と紅は頷いた。
「帰りたくないって言えば、嘘になるけど……」
言いよどむ青が可愛くて、紅はくすりと笑った。
「でも、イシュヴァルトがいるもんね、ここには」
かぁっと青の顔に朱が走る。
恥ずかしそうにしながらも、青はこくりと肯定した。
やはり、元の世界は懐かしい。両親や友人達に逢いたいとも思うだろう。
けれど、青の表情を見れば判る。
もし、帰る方法が見つかったとしても、青は、この世界に骨を埋める覚悟なのだと。
「僕もさ、この世界に残るつもりになってた。帰る方法も判らないしさ」
「うん」
「でも昼間、ふと思ったんだ。僕達のどちらもが居なくなったら、両親はどれだけ嘆き悲しむだろう、両親の老後は誰が面倒見てくれるのかなって」
「……紅」
「だから、僕だけでも帰る方法があるなら、帰るべきなんじゃないかなって、そう思ったんだ」
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