01-2
青を失った辛さは、並大抵なものではなかった。
まさに、この身の半分をもぎ取られたような感覚だった。
たった一日の出来事なのに、まるで、ひと月にも一年にも、永遠にも感じられた。
リードグレンが側に居なければ、紅は衝動的に命を絶っていたかもしれない。
今思うと、きっとリードグレンは、そんな紅に気付いていたのだろう。気付いていたからこそ、着きっきりで傍にいたのだ。紅が、短慮を起こさないように。
「ごめんね。それと、ありがと」
改めてお詫びとお礼を言うのが照れくさくて、紅は、階下の二人に目をやった。
クレセンティアとなったイシュヴァルトが、青の生還を望まなかったら、今頃青はああして笑っている事もない。
イシュヴァルトにも、リードグレンにも、暖かく包み込むように見守り続けてくれたクレウィーアにも、紅は深く感謝していた。
「青も、やっと幸せになれるね……」
紅は感慨深く呟いた。
ここに来た当初は、もとの世界に帰ることばかりを考えていたが、今では、こちらに居る方がいいのではないかと思う。
両性の青が、陰に隠れるようにひっそりと生きて行かなければならない世界より、胸を張って生きていける世界。
環境が良いからか、青の喘息も起こらない。
何よりも、大切に想う相手がいる。
紅にとって、青は一番だ。青が幸せならば紅も幸せになれる。
青の体の秘密を知るまでは、両親の愛情を独り占めする青を、紅は密かに恨んでいた。
だが、青の体の秘密を知ってから、紅の考えは変わった。青を守らなければならないと。
それ以降、紅のすべては青になった。
だが、それももう終わりだろう。
紅が気を配らなくても、守らなくても、青にはちゃんと他に守ってくれる相手がいる。
一抹の寂しさが紅の胸に過ぎった。
考え事をしながら青達の姿をぼんやりと眺めていた紅は、じっと見つめて来る視線がある事に、気付けなかった。
「ところで、コウ」
「なに?」
クレウィーアに呼び掛けられて、意識をそちらに向ける頃には、その視線は反らされていた。
「訊き難いことなのですが……セイは、その……子をなせるのですか?」
紅は、何故クレウィーアがそんな事を気にするのか解らないといった表情を浮かべた。
「陛下はセイを愛している。ほぼ間違いなく愛妾を持つ気はないだろう。そうなると、後継ぎをセイに生んで貰うしかないからな」
噛み砕いたリードグレンの説明に、紅は頷いた。
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