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03-5
男──イシュヴァルトは青の体をゆっくりと抱き上げた。
今度は紅の静止は飛ばなかった。

『話をするにはまだ刻限が早い。陽が昇ってから改めよう』

こんな風に、横抱きにされたのは初めてだった。
リードグレンとはまた違った、イシュヴァルトの整った男らしい顔が間近に見えて、大きな広い腕にすっぽりと包まれた青は、少し顔を赤くした。

「はい」

不思議な事に、彼の言葉の意味が理解できた。
話す言語自体は理解できないのに、まるで翻訳機に翻訳されたみたいに。
クレウィーアが整えた寝台の上に、
大切なものを扱うように、イシュヴァルトがそっと青を乗せる。

「あの……ありがとうございます」

『礼には及ばん』

イシュヴァルトの方でも、どうやら理解できているらしかった。
さらりと乱れた前髪をイシュヴァルトの指がひと梳きする。
出逢ったばかりの人に、こんなことを許している自分に、青は内心驚いていた。

『君も──』

紅を振り返り、

『もう少し体を休めなさい。大丈夫、ここには誰も入らないように、きっちりとリードグレンに護衛させる』

『……マジかよ』

不平を呟くリードグレンに、イシュヴァルトはちらりと冷たい視線を送る。リードグレンは諦めたように肩を竦めた。

「──判った」

ベッドへと促すイシュヴァルトに、紅は抵抗しなかった。
右も左も判らない、言葉も解らない世界で、青と二人だけで生きて行けるとは紅も考えてはいない。
自分達が居るべき場所へ帰る道を探す為にも、今は誰かの世話になるしかないのだと。

何よりも、青の体に無理はさせられない──。

紅がベッドに上がり込むと、天蓋に垂らされた紗幕と緞子を引かれる。



闇に包まれたベッドの中で、二人は一時の安息を手に入れた。

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