03-3
男が青に近寄り、その体を抱き上げようとした。
「何する気!?」
紅はしっかりと青の体にしがみついた。そうでもしない事には、男に青を奪われてしまう。
『心配するな、寝台に寝かすだけだ』
ベッドを指差す男の手を、紅は叩き落とした。
「ダメだよっ、横にすれば、もっと息が苦しくなる」
青を守る事に必死になっていた紅は、相手が言葉を解さないということが頭から抜けていた。
男は、紅の剣幕に驚いて、その腕を引っ込めた。
「こ……う」
「何? どうしたの?」
「ポ……トの……な……か……」
苦しい息の下から、青はそれだけをやっと言葉にした。
「ポケットの中?」
聞き返す紅に、ゆっくりと頷く。
紅は言われた通りに、虱潰しに、青の衣服のポケットの中に手を入れた。
青の呼吸は治まるどころか、酷くなるばかりだ。
あの騒動の中、吸入器をどうしたのか記憶にない紅は、唇を噛み締めた。
(迂闊だった。予備の吸入器も持ち出すべきだった……)
紅が持ち出したのは、吸入器にセットする薬液の容器だけだ。
(これだけじゃ何の役にもたたないのに、僕は、馬鹿だ)
最後のポケットに指を入れた時、硬いものが紅の指先に触れた。
紅はそれを掴んで、ポケットから取り出す。
「吸入器……」
使用途中の薬剤容器のセットされた吸入器が、その手の中にあった。
「青、これっ!!」
男達が心配そうに見守る中、青に吸入器が手渡される。
「……が……と」
嵐のような呼吸を、なんとか深く吸い込み、吐き出す。
もう一度、息を吸い込むタイミングに合わせて、青は薬剤を装填した吸入器を口に含み、息と共に吸い込んだ。
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