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良牙×




りょうが。と、弱々しく呟いた声は誰のものだったか。確実に俺のものではない。俺のものではないはずなのだけれど、それは確かに俺の咥内から吐き出されたもので。弱い、弱くてみっともなくて縋るような、そんな声音だった。こんなのは俺ではない。こんなにも脆い音質が俺の喉から口から、唇から紡ぎ出されたものだなんて。認めたくなかった。だから内心で自問した。お前は誰だ。と。



「乱馬?」



訝しむ良牙の声が鼓膜を震わし、戸惑うように寄せられた眉。勿論内心で自問した声がコイツに聴こえているはずがなく。良牙の聴覚が捕らえたのは俺のらしくない、情けない声音だけ。どうしたのかと尋ねる良牙の顔には明らかなる心配と戸惑いと動揺の色が複雑に混ざり合っていて。行くなよ。と、震える声が溢れた。この喉は誰のものだったろうか。所有権は間違いなく俺にあるはずなのに口をついてでるのはまるで他人のものみたいな女々しいものばかり。( 何を口走っているのだ、俺は。 )ねっとりと粘ついて気持ちが悪い咥内。上手く唾液が飲み込めない。内側の俺とは違う。別人みたいに弱い外側の俺がぎこちなく吐瀉する言の葉は。音の羅列は、最早俺には理解出来ない。( したくなんかない。 )わからない。誰なんだこれは。俺であって俺でない存在。しかしながら内心で焦燥し動揺する俺とは対照的に俺が口を開く度何事か投げかける度に良牙の表情はどんどんと喜色に満ちていく。次の瞬間いやにクリアに鼓膜に響いた自身の声。その意味を理解したとき、俺の中の何かが確実に変化するのだろう。と、わけのわからない自身の言動にひとつだけ確信した。



「お前が必要なんだ」



( 俺はこの男が好きなのだと。 )




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珍しく両思いじゃないか。(わかりにくい)


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