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EXTRA×EXTRA
*他校は出てきませんが上のEXTRAの続編となっております。





.....EXTRA 2.....




コン、とノックすれば「はい」とドア越しにくぐもった返事。
しかし部屋には入らずに外で待っていると、やがてのろのろと内側からドアが開かれた。


「み……」

「よっ」


あえて軽薄に感じられるように手をひらり。
御幸を迎えた人物は一瞬目を見開き、そしてすぐ俯いた。
それきり沢村が何も言おうとしないので、「一人?」と聞く必要のないことをあえて口にする。
たった今黒ごま豆乳を渡して別れた倉持はそのまま御幸の部屋だ。
それにここ最近、倉持は毎日のように消灯まで前園や他2年の部屋に入り浸っているのは皆知っていた。


「とりあえず中入れろよ」


ポンと、頼りなさげに丸まった背中を手で押し、自然に部屋にあがる。
その途中、


「……何か……用、すか?」


ようやく口を開いたかと思えば弱々しいそれ。
ぼそぼそと掠れた聞き取りにくいトーンに苦笑い。
あまりの“らしくなさ”。これは倉持も手を挙げるわけだ。
御幸はその苦笑をあえて消すこともなく、




「いんや、別に?」




へらりと肩を竦める。
それに沢村は「え……」と困惑を孕んだ表情を浮かべ、それから「そ、すか」と唇を噛んで俯いた。
「用がないなら来るな!」とかいう例の生意気な口は出ないらしい。というかここまで御幸相手に嫌な顔一つしなかったことに気付いた。
いつもなら、嫌そうに顔をしかめているのに。


自分の部屋なのに妙に居づらそうにする沢村。
早くも最終手段を取るしかなかった御幸は、


「そうだ沢村、土産」


と、ビニール袋から取り出したそれを沢村の手に乗せる。


「え、これっ……」


その一瞬だけ目に光が戻った。
御幸は知らなかったが御幸が適当に選んだそのプリンは沢村こだわりの逸品だったのだ。
「コンビニ行ってきたついで」と告げれば沢村は、「……ども、す」と素直に受け取った。


やかましいくらい全身で喜びを表現してはくれない、か。
わかっていたことだが、以前の彼を知る者にこれはなかなか衝撃的だ。




しかし、そんなことでダメージを受けるために来たわけではない。




さてと、と御幸は床にどっかり腰を下ろすと自分用に買ってきたジュースと野球とは関係ない漫画雑誌を床に広げた。
沢村はぽかんとしてそれを見下ろす。


「ん?別に邪魔しねーぞ?」

「え、いや……スコアじゃないの珍しい、つか……」

「あー大丈夫。俺今キャプテンでもキャッチでもねーから」

「?」


言葉の意味がわからず、そしてどうしていいか考えあぐねてその場に立ち尽くしている沢村に「いいよ」と御幸は笑った。




「お前もお前の好きなようにしていいから」




な?と軽く足を叩いてやれば、沢村は戸惑いながらも勉強机に伏せられた本を手に取った。珍しいことに読書の途中だったらしい。
しかし勉強机は使わず、少し迷って御幸と一人分の距離を置いて腰を下ろし、本を開く。
その途中思い出したかのように座布団変わりのクッション(倉持所有)を奨めて来たので有り難く受け取る。


御幸が雑誌を広げていると沢村はちらちらとこちらを窺いながらも、やがてプリンを食べ始め、食べ終われば本に集中し始めた。
それを感じた御幸はほっと小さく息をつき、ベッドに背中を預ける。こちらに向けられた後輩の丸まった背中をそっと眺めた。




沢村が何か話したくなったら話せばいい。
話したくないならそれでもいい。




ただ、主将でも捕手でもない、御幸一也としての立ち位置は、ここでありたい。
見守るならちゃんと隣に居てやりたい。
個人的に必要とされたら手が届く位置に居てやりたい。




だから、御幸一也としての時間はくれてやる。




そう思えてしまうくらいには、自分もこの馬鹿を気に入ってるのだ。


そうでなければ。




自分のスタンスをぶち壊そうなんて、そんなこと考えやしない。




隣からページをめくる音がする。
倉持のこと笑えねぇなぁと思い、柔らかく苦笑しながら、御幸も静かに雑誌に視線を落とした。















*キャプテンでも捕手でもない御幸一也はまだ距離をはかっているみたいです。






◆ ◆ ◆







.....EXTRA 3.....





「――……倉持先輩」


電気を消そうとしていた倉持ははっと振り向いた。
まだ彼らしさを取り戻せない後輩。覇気のない声が痛々しいが、それでもこの部屋で彼から声をかけてくれたのは久しぶりだ。
力の無い自分にはそっとしておくことしかできないため一人にしてしまうことは多いが、誰よりも近くでずっと彼のことを案じていた倉持は「ん?どうした」と彼にしては珍しく柔らかい声音になってしまう。


「最近、御幸先輩が変なんス」

「は?御幸?」

「なんか、その……」


やはりぼそぼそと、沢村は言いづらそうに続けた。




「この間いきなり俺のこだわりプリン買ってきてくれたかと思ったらそのまま部屋に居座って消灯近くまでだらだら……。
でも話をするわけでもなし、ただ隣に座って雑誌とか読んで、時々ふと生暖かい目で見てるんス。
そんなのがここんとこ毎日続いてるんスけどどう思いま……」




ぶふぉっ。




倉持は途中で噴き出してしまった。耐え切れなかったのだ。そのあまりの内容に。
最近風呂を上がった後やたら御幸が消えると思っていたらそんなことになっていたのか。倉持は消灯ギリギリまで部屋に戻らないため入れ違いになっていたらしい。
しかし、どうやら御幸はその行動を思い切り不審がられているようだ。




ヒャハハざまぁねぇぜ御幸!いきなり慣れないことするから!




一人優しい先輩ぶる馬鹿をくつくつ一頻り笑った倉持は、ふと真剣な面持ちに切り替える。


「――あのな、いいか沢村」


沢村は「はい」と神妙な顔で頷く。
そして、倉持はこう告げた。




「ケツに気をつけろ」









EXTRA×EXTRA









(倉持、最近沢村の様子が変なんだ。俺に背を向けたがらないっつーか)

(ヒャハハ何かしたんじゃねーの?ケツとかに)











*みゆきはあらぬごかいをうけた!
だがみゆきにはくらもちしかそうだんあいてがいないというあくじゅんかん!



こんなんであと原作待ちってことで。
お粗末さまでした。


101210

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あきゅろす。
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